■暴力を助長

 フォーダム大学(Fordham University)のジョン・パフ(John Pfaff)教授(刑法学)によると、今年は暴力を助長するような最悪の条件がそろってしまっているという。中でも、新型コロナウイルス危機による数か月にわたる自宅待機と、白人警官による黒人男性ジョージ・フロイド(George Floyd)さんの死をきっかけに全国で巻き起こった人種差別とその審判が特に大きい。

 ニューヨーク市ではさらに、人種差別に抗議する市民らからの圧力を受け、ビル・デブラシオ(Bill de Blasio)市長が警察予算の削減を決定したことがこの状況に拍車をかけている。具体的には警官の市内パトロールの時間外勤務の削減と、人種差別的と非難を受けていた私服警官500人強から成る防犯部隊の廃止だ。

 こうした動きにドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は、自身が生まれ育ったニューヨークや民主党首長が多いその他の主要都市では暴力の潮流を食い止められていないことを指摘する。民主党を攻撃するための材料としてこの問題を取り上げているのだ。

 これに対してパフ氏は、「暴力のレトリックを活用する大統領の影響を話す人がほとんどいない」ことを指摘し、「このレトリックが持つ影響力の大きさをはっきりと指し示すことは難しいが、確実に問題を大きくしている」と話す。

「セーブ・アワー・ストリーツ」の地域安全部門で副所長を務めるシャドー・ターバー(Shadoe Tarver)さん(32)も、今年の状況が非常に難しいものとなっていることを認める。

「われわれのコミュニティーでは、コロナよりも前から多くの問題──地域社会への投資取りやめ、経済不安、教育制度の破綻──が既に存在していたが、これがさらにひどくなった」と述べ、3月以降に起きた社会的事象が「着火を待つ火口箱」のようになったと説明する。