動画:スイスの夜警、大聖堂の「警鐘」鳴らして市民に団結呼び掛け 新型ウイルス
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【3月30日 AFP】スイス・ローザンヌ(Lausanne)の大聖堂で毎晩、鐘楼の頂上に上り、肉声で時を告げている夜警のレナト・ホイスラー(Renato Haeusler)さんは今、文字通りの「警鐘」を鳴らしている。1518年に造られた鐘「ラ・クレマンス(La Clemence)」は、いつもは平穏なこの街が危機に直面しているときにだけ鳴らされる。
重さ3.4トンの鋼鉄製の鐘の荘厳な音が、ローザンヌ市内からレマン湖(Lake Geneva、別名:ジュネーブ湖)まで、静まり返った夜風に乗って響き渡る。ホイスラーさんは、この鐘を鳴らして新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)に直面している市民に団結を呼び掛けているのだとAFPに語った。
夜警は15世紀から続いてきた伝統を守り、毎晩決まって153の石段を上って鐘楼へ行く。そして午後10時から午前2時まで1時間おきに、東西南北に向かって肉声で時を告げる。「こちらは夜警。鐘が10時を打ちました。鐘が10時を打ちました」。手を口に添えてメガホンのようにして、家々の上へ声を送る。毎時せりふは同じで、鐘の鳴る回数だけが変わる。
ローザンヌは、欧州で今なお時を告げる夜警が残っている数少ない街だ。ホイスラーさんは2002年から常勤でこの仕事をしている。
ローザンヌの夜警が記録に初めて登場するのは1405年。街が大火に見舞われた後だ。「その大惨事の間、この鐘は人々を励まし、共に力を合わせて火災を乗り越えようとの意味を込めて鳴らされた」とホイスラーさんは言う。
大聖堂の夜警はローザンヌで最も高い場所から、地上にいる夜警たちのネットワークと連携し、危険な事態が起きれば一刻も早く人々に緊急事態を告げた。それから何世紀もたった今、再び、レマン湖岸のこの街は危機に見舞われ、時間になると3分間にわたって鐘が鳴らされる。
スイス厚生省によると、新型コロナウイルスの検査で陽性と判定された人は同国内で1万3000人を上回り、死者は230人を超えている(いずれの数字も3月28日現在)。政府は外出は禁止していないが、屋外での5人以上の集まりを禁止する措置を発表した。
普段ならば学生街のローザンヌは夕方、特に週末は人でにぎわうが、今は奇妙なほど静まり返っている。
「車の騒音がなかった昔は、きっとこんな感じではなかったかと思えるほどの静けさだ」とホイスラーさんは言い、「中世のような状態に私たちが引き戻されたとしても、これだけは起きないだろうと思われるのは、明かりが消えてしまうことだ」と続けた。
映像は28日撮影。(c)AFP/Eloi ROUYER