【1月6日 AFP】オーストラリア南東部で猛威を振るっている森林火災で、固有種コアラの保全のカギを握る個体群、推計5万匹のうち少なくとも半数が死んだ恐れがあると豪野生動物公園が5日、明らかにした。専門家らは、昨年9月から続く森林火災によってオーストラリア固有の動植物相は壊滅的な打撃を受けており、ニューサウスウェールズ(New South Wales)州だけで5億匹近い動物が死んだとの推計を発表している。

 サウスオーストラリア(South Australia)州の沖合にある自然観光名所、カンガルー島(Kangaroo Island)には、野生のコアラ推計5万匹をはじめ多くの固有種が生息している。しかし、ここ数日で急速に延焼した森林火災により、3日までに島の総面積の3分の1に相当する17万ヘクタールが焼失。生息環境が深刻に悪化している。

 負傷したコアラの治療のための募金を行っているカンガルー島ワイルドライフパーク(Kangaroo Island Wildlife Park)のサム・ミッチェル(Sam Mitchell)氏は、「(コアラ生息数の)50%以上が失われた」とAFPに語った。「負傷の程度も極めて厳しい。それ以外のコアラも帰るべき生息地をなくし、今後数週間のうちに飢えが問題になるだろう」という。

 昨年7月に豪アデレード大学(University of Adelaide)が発表した研究によると、カンガルー島のコアラは大規模な個体群としてはオーストラリア国内で唯一、クラミジアに感染していない。このため、コアラ保全のカギを握る「保険」の役割を果たす特に重要な個体群とされている。

 サウスオーストラリア州政府はカンガルー島のコアラについて、クラミジアに感染していないため島外へは移送できず、そのため島内で獣医師らが負傷した個体の治療に当たっていると説明した。

■動物の被害は4億8000万匹以上、豪大試算

 豪森林火災では、コアラが人間から手渡されたペットボトルの水を必死に飲む姿や、炎上する町中でなすすべなく立ち尽くすカンガルー、黒焦げになった森など、悲惨な映像の数々が世界中の人々に衝撃を与えている。

 豪シドニー大学(University of Sydney)は3日、ニューサウスウェールズ州だけで昨年9月以降に推計4億8000万匹の動物が死んだとする研究結果を発表。この数字は「非常に控えめ」で、実際に犠牲になった動物の数は「はるかに多い」恐れが高いと指摘した。4億8000万匹という数字は哺乳類、鳥類、爬虫(はちゅう)類の被害のみで、虫やコウモリ、カエルなどは含まれていない。

 豪マッコーリー大学(Macquarie University)のアンドルー・ビーティー(Andrew Beattie)名誉教授は、被害の最も大きい地域で生物数が回復する望みはあるかと問われ、降雨量や気候、森林伐採などの要素が影響するとした上で、生息環境の回復には40年近くかかるかもしれないとの見通しを示した。(c)AFP