■パークランドの「鉄の男」

 2014年、家族とともにフロリダ州南部に到着したアンソニー・ボルヘス(Anthony Borges)さんは、12歳になったばかりだった。政局が混乱し、犯罪もはびこるベネズエラから逃れてきた移民だった。

 それから4年、昨年のバレンタインデーにアンソニーさんは通っている高校で、背中と脇の下に1発ずつ、さらに片脚に3発の計5発の銃弾を浴びた。
 
 同州パークランド(Parkland)のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校(Marjory Stoneman Douglas High School)で起きた銃乱射事件に巻き込まれたのだ。同校の元生徒が17人を殺害した事件だった。

 16歳になったアンソニーさんは、住んでいるコーラルスプリングス(Coral Springs)地区の公園で「苦労してベネズエラを脱出して新しい生活を始めたのに、こんなことが起きた」と語った。

 アンソニーさんは最初の1発を背中に受けた後、他の生徒20人が隠れていた教室に入ってドアが開かないように自らの体をバリケードにした。銃乱射犯はアンソニーさんをさらに4回撃ってから、移動していった。

 今やアンソニーさんは「鉄の男」と呼ばれているが、本人はそんな風には思っていない。「英雄になった気なんかしない。僕は普通の人間だ」。アンソニーさんがパーカーをたぐり上げると、無数の傷痕が現れた。

 13回に及ぶ手術と何か月もの理学療法を経て、アンソニーさんは片方の足を除く全身の動きを取り戻した。何本かの指は今も動かず、さらに手術が必要だろう。

 アンソニーさんは悪夢にも悩まされてきた。「以前ほどではないけれど、今でも夢を見る。歩くと足や背中が痛いこともある」
  
 だが、今年3月にひいきのサッカーチーム、FCバルセロナ(FC Barcelona)を見るためにスペインを訪れたときのことを聞くと、アンソニーさんは笑顔になり目を輝かせた。これは回復の後押しとなった。

 アンソニーさんはずっとプロのサッカー選手になりたいと思っており、今は友人たちとのプレーを楽しんでいる。家族はアンソニーさんの脚が失われなかったことに感謝している。(c)AFP/Leila MACOR / Issam AHMED