■月の次は火星に

 マルグリッドさんは学業のためハンツビルを離れ、ここ42年はアイダホ州に住んでいる。州立大学で環境工学を教えている他、NPO「テラグラフィックス(TerraGraphics)」を共同で設立し、環境汚染による健康被害を防ぐ活動に取り組んでいる。

「父は明らかに地球の外に興味を持ち、他の惑星に行きたがっていたが、私の興味は地球にある」とマルグリッドさんは言う。

 そして、フロリダ州にあるケネディ宇宙センター(Kennedy Space Center)から、サターンV型(Saturn V)ロケットが打ち上げられた際の父親の反応を今も覚えているとしながら、「翌日には火星に行くことを話していた」と付け加えた。

■ナチス親衛隊隊員

 フォン・ブラウン氏は人類を月以外の宇宙空間に送り込むという夢に熱中していたが、触れてはいけない話題がひとつあった――戦争だ。

 フォン・ブラウン氏は1937年にナチス・ドイツ(Nazi)に入党し、科学者としてV2開発プログラムを率いた。ナチス親衛隊の隊員でもあった。そして、戦争が終わりに近づくと、アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)は英ロンドンとベルギーのアントワープ(Antwerp)に向けて世界初の誘導式長距離弾道ミサイルであるV2を発射。市民や軍人数千人の命を奪った。

 フォン・ブラウン氏の功績については、歴史家の間でも意見が分かれている。戦争犯罪人と呼ぶ学者がいる一方で、当時の全体主義政府に従うしかほとんど道は残されていなかったと見る人もいる。

「戦争中の出来事を解明するのは非常に困難だ」「何かを依頼されたら断るわけにはいかなかった」とマルグリッドさんは述べ、「民主主義国家の米国に暮らす私たちのように選択肢を持っていたとは思えない」と指摘する。

「米国人はロケット科学者を採用し、そのロケット科学者が米国の月面着陸を助けた。そのような位置づけがより正確だと考える」とマルグリッドさんは不快な様子を少しも見せずに話した。(c)AFP/Ivan Couronne