■何十年にもわたる核武装議論

 核抑止力をめぐる議論は突然始まったものではない。ホワイト氏によると、オーストラリアの軍事戦略家たちはひそかに何十年にもわたって核武装について検討し、核兵器の開発にどの程度時間がかかるか評価していたという。

 ただ、豪政府はこれまで常に核兵器開発はあまりにもコストが高いと判断し、また差し迫った戦争の脅威も少なく、米政府の後ろ盾もあると考えてきた。

 その一方で脅威に関する見通しは変化しており、中国との衝突の可能性は一段と増しているようにみえる。オーストラリアの権益下にある二つの地域──南シナ海(South China Sea)と南太平洋は、今や地政学上の紛争地帯だ。

 オーストラリアは定期的に軍艦や航空機を南シナ海周辺に巡回させているが、中国政府は南シナ海のほぼ全域について領有権を主張している。また、国際水域内にいる時ですらオーストラリアの船舶は中国軍から追跡や挑発を受けている。

 最近起きた事例では、海上演習に参加していた豪海軍のヘリコプターの操縦士らに向けてレーザーが照射され、同機は着陸を余儀なくされた。

 そうした中、スコット・モリソン(Scott Morrison)豪首相は中国政府の関心を一層ひいている地域に再び影響を及ぼそうと、南太平洋における外交関係の強化に乗り出している。

 だが一方で、ホワイト氏の主張は費用面で実現不可能な上、非現実的で無用なものだと批判する向きもある。豪シンクタンク、ローウィー研究所(Lowy Institute)のサム・ロゲビーン(Sam Roggeveen)氏は、ホワイト氏の著書の書評において「控えめに言ってもオーストラリアの防衛政策に関する超党派の政治的コンセンサスは、ホワイト氏が取る立場とは程遠い」と指摘する。

 それでもロゲビーン氏は、中国の台頭と米国の衰退というホワイト氏の見解は「冷静な分析に基づいている」とし、自身にとっても「説得力のあるもの」だと考えている。

 誰もが同じような考えにあるわけではないが、ホワイト氏の主張がまともに受け止められているという事実こそ、世界におけるオーストラリアの立ち位置に関する懸念が高まっていることの証しとなっている。(c)AFP/Andrew BEATTY, with Max Blenkin in Canberra