【5月9日 AFP】米国のドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領はこれまで、自らが進める輸入品への関税の引き上げによって財政が大きく潤うと繰り返し強調してきたが、複数の調査結果により実際に関税引き上げの「ツケ」を払うのは米国民であることが分かった。

 トランプ氏は中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)相当に対する追加関税を10日から25%に引き上げる意向を表明。また、中国との通商交渉が合意に至らなくても関税から利益を得られるので問題ないと主張している。

 しかし、この発表には実業界から農業界までが懸念を示しており、世界中の投資家たちにも動揺が広がっている。

「関税という税金を払うのは結局、中国ではなく米国の事業者や消費者たちだ」と全米小売業協会(National Retail FederationNRF)のデビッド・フレンチ(David French)上級副会長は指摘する。

「発表から開始まで1週間もない突然の関税引き上げは、影響緩和の手段が限られている中小企業を中心に米経済を深刻な混乱に陥れるだろう」

 トランプ氏は中国やその他の国々に対する関税引き上げにより年間1000億ドル(約11兆円)の歳入増になると主張しているが、実際に支払うのは輸入業者であり、結局その一部は消費者の負担に回ることとなる。

 関税引き上げが迫る中、米中は9・10日に米首都ワシントンで正念場となる貿易協議に臨む。中国の態度を変えさせ、その広大な市場を開放しようと考えるトランプ政権を米産業界や小売業界は支持している一方、関税引き上げが売上減少につながり、消費者に経済的負担を強いることになりはしないかと懸念している。

■米国内の雇用減、支出増に

 米調査会社トレード・パートナーシップ(Trade Partnership)は、追加関税の25%への引き上げによって4人世帯の年間支出は767ドル(約8万4000円)増え、100万人近くの雇用が脅かされると試算している。

 米国の貿易関連の労働人口は3900万人で、うち700万人の雇用が中国との貿易によって支えられている。関税は鉄鋼や皮革、ゴム、プラスチックといった多くの中間製品から、テレビなどの家電製品や家具といった最終製品にまで影響する。

 ニューヨーク連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of New York)の最近の調査によると、2018年3月の鉄鋼とアルミニウムへの関税の引き上げ、さらに同7月の中国製品に対する関税引き上げにより昨年の消費者物価指数(CPI)は0.3%上昇した。

 また、先月発表された同銀とシカゴ大学(University of Chicago)の調査では、輸入品の洗濯機に掛けられた関税により米国の消費者全体の支出は年間15億ドル(約1600億円)増加し、洗濯機の価格は86ドル(約9400円)、ドライヤーの価格は92ドル(約1万円)上がったと推計している。

 NRFのフレンチ氏は、「中国の貿易慣行に有意義な変化があるようみんなが望んでいるが、交渉戦術の中で米国民が痛みを感じるようなことがあっては意味がない」と批判している。

 8日に発表された中国の公式統計によると、4月の対米輸出は落ち込んでいるものの、関税引き上げにもかかわらず対米貿易黒字は依然拡大している。(c)AFP/Virginie MONTET