■頸動脈壁の肥厚と体重減少

 観察の結果、宇宙滞在時にスコット氏の頸(けい)動脈壁が厚くなったことが分かった。頸動脈壁の厚みは心疾患や脳卒中のリスクの指標となる。地上のマーク氏には、こうした肥厚(ひこう)は見られなかった。頸動脈壁の肥厚は、これ以前にも宇宙飛行士で観察されていた。

 また、宇宙での栄養摂取状態の低下と運動不足に起因する体重減少が認められた。スコット氏はISS滞在中に体重が7%減少した一方、マーク氏は調査期間中に体重が約4%増加した。

 宇宙滞在前と滞在中、および帰還後に実施した一連の認知力検査では、地球帰還後のスコット氏の認知力に処理速度と正確さの面で低下が認められた。

■テロメアの長さ

 最も興味深い調査のいくつかは、コロラド州立大のベイリー博士のチームが行ったテロメアの分析だ。染色体の末端部分にある構造物のテロメアは通常、加齢とともに短くなる。

 テロメアは心疾患やがんによる健康リスクや、老化などのバイオマーカー(生体指標)とみなされている。

 ベイリー博士のチームが宇宙飛行前にスコット氏とマーク氏のテロメアの長さを比較したところ、非常に類似していることが分かった。

 ベイリー博士のチームを驚かせたのは、ISS滞在中のスコット氏に「テロメアの明確な伸長」がみられたことだ。「宇宙飛行中のスコット氏のテロメアは、飛行の前や後に比べて長くなっていた」と、ベイリー博士は話す。

 ただし、この結果を「不老の泉とみなしたり、宇宙空間にいれば長生きが期待できるなどと受け取ったりすることはできない」とベイリー博士は指摘する。博士によると、スコット氏が地球に戻るとすぐ、テロメアの長さに「非常に急速な減少」が起きた。中には消失したテロメアもあったという。

「このような指標によって健康全般に関する情報が得られる可能性があるため、テロメア長の動態の観察は将来的に、宇宙飛行士の健康と潜在的な長期リスクを評価する重要な要素の一つとなる」と、論文は述べている。

 ベイリー博士によれば、今回のテロメアの伸長に関する説明はまだ得られておらず、宇宙放射線の被ばく線量の上昇、炎症、ストレスなどが原因となっている可能性があるかどうか調査を進めているという。(c)AFP/Chris Lefkow