■裏取引
 アブ・スルールさん一家は、証明書類があるにもかかわらず、家の所有権争いに巻き込まれてしまい、ひょっとしたら負けるのではないかと恐れている。だが、アブ・スルールさん一家の話は、個人入植者と支援団体が不当に不動産の所有権を主張する数ある事例の一つにすぎない。入植者らは、偽造文書を使ったり、イスラエル政府の支援を利用したり、脅迫したりして、不動産を手に入れようとする。

 アブ・スルールさんの家から数メートル離れた場所に、不動産の不正取得の成功例がある。ベイト・バラカ(Beit al-Baraka)は、結核患者を収容する病院として使われたこともある教会だったが、3年前にグッシュ・エツィオン(Gush Etzion)入植地に組み込まれた。

 この教会は数段階の手続きを経て、入植者の手に渡った。最初の所有者だった長老派教会の団体は2010年に財政難に陥り、スウェーデン企業スカンジナビアン・シーメン・ホーリーランド・エンタープライズ(Scandinavian Seamen Holy Land Enterprises)に売却した。

 同社は教会を修復すると主張していたが、同社の背後に、グロ・フェイハンセン・ヴェンスケ(Gro Faye-Hansen Wenske)と称するイスラエルの入植を支持するノルウェー人がいたことを、売り手の長老派教会団体は気付いていなかった。

 スカンジナビアン・シーメン・ホーリーランド・エンタープライズは2012年に倒産し、問題の不動産を入植事業に賛同する米国人実業家アービング・モスコウィッツ(Irving Moskowitz)氏傘下の米団体に売却した。その後2016年までに、元教会の不動産はグッシュ・エツィオン入植地として正式に登録された。

 アブ・スルールさんの家は、教会の宣教師が建てたもので、病院責任者の住宅として使われていた。アブ・スルールさんの家族は1990年にこの住宅を購入し、それを証明するパレスチナ、イスラエル、米国の書類も保持している。だが、アブ・スルールさんは、数年前にベイト・バラカを「だまし取った」ように、入植者が裏の手口や偽造文書を利用して家の権利を主張するのではないかと恐れている。