■社会的期待から生じる悲惨な花嫁取引

 西安交通大学(Xi'an Jiaotong University)人口発展研究所の姜全保(Jiang Quanbao)教授は、「結婚は個人の問題ではなく、家族全体の問題。特に、親にとって息子たちが独身でいることは、狭い村社会の中ではメンツの問題になる」と指摘する。社会的な期待に潰されまいとするこうした動きが、悲惨な花嫁取引につながっているのだ。

 しかしその一方で、メコン諸国一帯で女性たちの救出活動をする複数の支援団体によると、中国の周辺諸国では誘拐されたり、だまされたり、強制結婚させられる女性の数が増えているという。

 中国の警察当局は昨年、花嫁売買が広がる東部の河南(Henan)、安徽(Anhui)、山東(Shandong)、江蘇(Jiangsu)の各省で強制結婚させられた女性たちを救出している。

 中国の法律の下では、女性や子どもの誘拐や人身取引には5年から10年の実刑が科されるが、こうした取引の件数は年々増え続けており、法改正を求める声も出ている。

「人身取引でのもうけは非常に大きく、関係者にこうした行為をやめさせるよう仕向けるインセンティブもない」と、ベトナムを拠点に人身取引の防止活動に取り組む団体「パシフィック・リンク・ファンデーション(Pacific Links Foundation)」のミミ・ブー(Mimi Vu)さんは語る。「需要があり、金銭が動く。もうけろと言わんばかりだ」

 中国が一人っ子政策から二人っ子政策へ転換したのは2016年。だが、結婚適齢期の女性が増えるまでには10年単位の時間がかかる。つまり、花嫁取引がなくなることは当分見込めないのだ。