■神に対する冒涜

 東南アジアの島しょ国であるインドネシアは、表向きには多様性を掲げており、ヒンズー教やキリスト教、仏教など、主に六つの宗教が認められている。表現の自由も法律で保障されている。

 だが、実際には人口2億6000万人の90%近くはイスラム教徒で、イスラム教に対する批判は刑事施設に収容されるリスクともなり得る。

 今年、ある大学の男子学生が、フェイスブック(Facebook)への投稿で、アラーとギリシャの神々を比較したことが問題視され、罪に問われた。学生は、コーランについて、小説「指輪物語(The Lord of the Rings)」と同じくらい非科学的と書いていた。学生には、最長で実刑5年の有罪判決を受ける可能性がある。

 無神論について、宗教省研究開発局のアブドゥルラフマン・マスード(Abdurrahman Mas'ud)局長は、「その考えや意見を広めると問題になる」としたが、個人の中にとどめておく限り、考えそのものが問題視されることはないと説明した。

■命の危険

 世俗主義的な路線を取っていたスハルト(Suharto)の独裁時代から20年が経過し、インドネシア社会では、イスラム保守主義が急速に広がった。それと同時に強硬派の台頭、さらには宗教的動機に基づく暴力も増え、同国はイスラム武装勢力の問題と常に隣り合わせとなった。2002年に発生したバリ島爆弾テロ事件では、200人以上が犠牲となり、国内最悪の襲撃事件となった。

 襲撃事件はその後も起きている。今年に入ってからは、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」による、キリスト教徒を狙った自爆攻撃が続いており、これまでに13人が命を落とした。

 AFPが取材した無神論者らは、ポピュリスト政治家らの後ろ盾を得たイスラム強硬派が次にターゲットとするのは、自分らではないかと不安気に語る。

 元々はカトリック教徒として育てられたという35歳のグラフィックデザイナーは、「この国では、私たちは殺されてしまうかもしれない」と話し、「心の底から自分の命の危険を恐れている」と続けた。