■傷だらけでやって来る女性たち

 女性レスラーに加えられるボディブローはやらせではない。試合で腕や足、背中に負う傷やあざ、けがに彼女たちは必死に耐えている。その上、「男のスポーツ」をやっていると言われ、性差別や批判にもさらされている。時には自分の家族からさえもそんな仕打ちを受ける。

 ムーンビームは多くのメキシコ女性よりも幸運だった。夫は男女同権主義者であり、父親からも無条件のサポートを受けたと言う。「このキャリアは父からもらったもの。ジムの会員費も払ってくれたし、スニーカーも買ってくれた。父はいつも私のことをものすごく誇りにしてくれていた」

 彼女は首都メキシコ市郊外にあるメヒコ(Mexico)州の荒っぽい地区で育ち、今もそこにあるジムでトレーニングをしている。同州はメキシコの中でも女性に対する暴力の件数が最悪の州で、昨年1年間で301人の女性が殺害された。

 近所の女性たちの多くと同様、ムーンビームも高校は卒業していない。けれど、レスラーをやっていることで「学校の資格とは違う意味で、人に認めてもらえる」としながら、「女性レスラーと撮った写真を家族に見せれば、『すごい、知り合いなの!?』と言われるよ」と話した。

 ムーンビームの夫であり、コーチでもあり、自身もレスラーであるガブリエル・マルティネス(Gabriel Martinez)さんは「レスリングをすることで、女性たちは自分の恐怖心や、自分を虐げる夫に立ち向かうことができる」と語る。マルティネスさんがコーチをしている女性レスラーたちは、家で傷やあざをつけられてトレーニングに来ることが頻繁にある。

 レスリングは女性たちの「自尊心を高め」、自分の身を守るすべを教えてくれるとマルティネスさんは言う。「暴力は決して私たちが誇りにすべきものではない。けれど、自分の能力を分かっている女性が、女嫌いの男たちに身の程を知らせてやれるとすれば、それは誇れることだよ」 (c)AFP/Yemeli ORTEGA