■「地に足を着けた感じ」

 ポーランドのズビギニェフ・ブロドカ(Zbigniew Brodka)も、仕事が競技に役立っていると話す一人だ。ソチ冬季五輪のスピードスケート男子1500メートルで金メダルを獲得したブロドカだが、ぴったりしたスーツをまとっていないときの彼は消防士。平昌では12位にとどまった33歳だが、仕事のおかげで試合前の緊張はほとんど感じないという。

「前回は仕事に戻った際に大変な騒ぎになりました。今でも道で気づかれることがよくあります。悪い気はしません。消防士として働く中で精神的に強くなり、スポーツで緊張することはあまりなくなりました。仕事で悲惨な場面やひどいことを見てきていますから」

 カーリングの混合ダブルスに出場したノルウェーのクリスティン・スカスリエン(Kristin Skaslien)は、すでに業務アナリストの仕事へ復帰していたところ、大会側から連絡が入り、ファーストクラスのチケットを用意されて平昌へ戻ることになった。ロシアの選手が薬物違反で失格となり、繰り上がりで獲得した銅メダルを改めて受け取るためだ。

 スカスリエンは「上司に携帯メールを送って『韓国行きのファーストクラスのチケットをもらいました。火曜までには戻ります』と伝えました」と教えてくれた。

 このように、五輪には大会で活躍した看護師や車の整備工、兵士、時計職人、消防士の心温まるストーリーがある一方で、憂慮すべきエピソードもある。ボンのように高額のスポンサー契約を結んで大きな収入を得ている選手がいるかたわらで、多くの選手は大会の参加費をかき集めるのにも苦労しているのだ。「公平な競技環境」は、まだ実現には程遠い。

 英国代表としてボブスレー女子2人乗りに出場したマイカ・マクニール(Mica McNeill)とマイカ・ムーア(Mica Moore)のように、五輪出場の夢をつなぐため、クラウドファンディングに頼る選手は多い。

 ボブスレーは冬季スポーツでも特にお金がかかると言われ、平昌五輪に出場したオーストラリア男子のチームは、自分たちのそりを用意するお金が工面できず、オランダから1台借りなくてはならなかった。それでも、そりの輸送費は彼ら持ち。その額は片道4000~5000ユーロ(約50万~65万円)に達する。

 今大会で6位に入ったカナダの女子カーリング選手、ジョアン・コートニー(Joanne Courtney)の普段の仕事は看護師だ。大歓声とまばゆいスポットライトを浴びる五輪の舞台とはかけ離れた仕事場だが、28歳のコートニーは、仕事に戻るのがつらいとは感じていない。

「公認看護師の仕事を、私は視野を広げる機会だと思っています。仕事へ戻るのは全然イヤじゃありません。もう一度地に足を着けた感じがするんです」 (c)AFP/Peter STEBBINGS