■監視と追跡「クローズドな」IT環境

 科学技術センターの中央棟は、北朝鮮が2012年に発射した人工衛星ロケット「銀河(Unha)3号」の巨大模型を囲むように建っている。このロケットは、米本土まで到達可能な大陸間弾道ミサイルの試作とみられているが、北朝鮮政府は純粋に宇宙探査が目的と主張する。

 科学技術センターのコンピューターには、それぞれ制限が設けられており、メインホールのコンピューターから閲覧できるウェブサイトは内部サーバーがホストしているページに限られている。内容も子ども向けの漫画や教材といったものばかりだ。一方、17歳以上の利用者で必要な許可を取れば、北朝鮮の厳しく統制された閉鎖的なイントラネットにアクセスすることが
できる。ここからは国営メディアなど当局公認のサイトを閲覧することも可能だ。

 北朝鮮の大学の電子図書館へのリンクも提供されているが、壁に大きく貼られたポスターが宣伝しているように、エルゼビア(Elsevier)やシュプリンガー(Springer)といった欧米の科学データベースにアクセスできるかどうかは不明だ。

 イントラネットには、オープンソースOS(基本ソフト)のリナックス(Linux)を基に北朝鮮が独自開発したOS「レッドスター(Red Star)」が使われている。レッドスターをダウンロードして徹底分析した2人のドイツ人研究者ニクラウス・シャイス(Niklaus Scheiss)氏とフロリアン・グルンオー(Florian Grunow)氏は、このOSを「監視国家の夢精」と表現した。

 このOSは、ユーザーがコンピューター上で操作を行うと、使用中のファイルや接続されているUSBに「印」をつける仕組みになっている。昨年ドイツで開催された会議での両氏の報告によれば、誰がファイルを作り、所有し、そして開いたかを追跡することが目的なのだという。

 外国の映画やニュース、音楽などが禁止されているこの国では、USBといった機器を介して映像や音声が違法に視聴されているが、このOSはそれらを取りしまるための強力な監視ツールだ。

 科学技術センターの訪問者には、仮のIDカードが発行され、指定されたコンピューターへのログインが許可される。同センターでアルバイトをしている大学生のリ・ヨンファさんは「勉強するのにいい場所だし、昼休みにはここで作業している」とAFPに語った。そして「この国を科学技術先進国にするという親愛なる指導者の言葉を、私は行動に移したかった」と続けた。

 北朝鮮の一般市民は、外国メディアからの質問に対し、当局の公式見解のみを語るのが常だ。(c)AFP