■「米国の陰謀」伝えたエジプトのメディア

 カイロの食料品店で、店主のカレム・モハメド(Karem Mohamed)さんが物憂げにクリントン氏を擁護していると、タマネギの漬物をおけに入れていた店員のマフムド・アブデルアル(Mahmud Abdel Al)さんが割り込んできてこう言った。

「いや、あの女はムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)だぞ!やつは敵の協力者だ」

 ムスリム同胞団出身のムハンマド・モルシ(Mohamed Morsi)前大統領は就任後わずか1年の2013年に大規模な抗議デモに刺激された軍によって大統領の地位を追われた。クリントン氏がモルシ氏を支持していたと考えているエジプト人は多い。

 米政府はモルシ前大統領の失脚を非民主的だと批判した。その後エジプトのメディアは、中東を分断する米国の「陰謀」について繰り返し伝えた。

 エジプト指導部は米大統領選をめぐる論争にはあまり関わっていないが、モルシ氏を追い落とした元エジプト軍トップのアブデルファタハ・シシ(Abdel Fattah al-Sisi)現大統領は今年9月、米ニューヨーク(New York)でクリントン、トランプ両氏と個別に会談した。

 シシ大統領は米CNNのインタビューで、「選挙期間中はいろいろなことが言われる」と述べてイスラム教徒の米入国を禁止するというトランプ氏の発言を重視していない姿勢を示し、トランプ氏が大統領になれば強い指導者になるのは「疑いない」と述べていた。(c)AFP/Samer Al-Atrush