■法律の抜け穴、政府は自由放任

 モスクワ郊外の廃工場の迷路に​​囲まれた醸造所「グリーン・ストリート・ブリュワリー(Green Street Brewery)」は、クラフトビールブームに拍車をかける数多くの地ビール醸造所の一つだ。醸造家のマキシム・ボロダ(Maxim Boroda)氏は友人たちと共に、毎月800リットルのビールを生産している。アルコール飲料製造所の所有者に義務付けられている行政手続きを回避するために、彼らは同醸造所を毎月借り直すことにしている。

 クラフトビールブームがロシアで起きた一つの理由は、クラフトビールの生産と販売に関する法律の抜け穴だ。例えばビールしか出さないパブならば、酒類販売許可証なしで営業できる。「グレーゾーンだ。私たちがやっていることは合法でも違法でもない」とボロダ氏は言う。

 デンマークのビール醸造会社カールスバーグ(Carlsberg)が所有している「バルティカ(Baltika)」はビール市場を今でも支配しているが、同時に市場は急速に進化している。この進化に直面しているロシア政府は、クラフトビール業界に対して自由放任主義の姿勢を取っている。「蒸留所はもちろん広まっている」と業界専門家のペトロバ氏は述べる。

 ただし現在、政府が市場に介入していないことは、今後の発展を阻む可能性があると同氏は言う。現在は曖昧な法律が突然強化される可能性はあり、そうすれば醸造者は破産しかねないためだ。

 また、クラフトビールのラベルは、多くのビールメーカーが新製品に自由に貼っているため急増していて、本物のクラフトビール生産者に損失を与えるようになるかもしれないとペトロバ氏は警告している。

 しかし、クラフトビール革命を主導してきた本人たちはそれほど恐れていない。ステンレスタンクから出てくる蒸気を吸い込みながら、醸造家のボロダ氏は「私たちはロシアのイメージを変えるのだ」と言う。「ウオッカ愛好家もそのうち、ビールを好きになるだろう」

(c)AFP Anaïs LLOBET