【4月29日 AFP】ペルーの首都リマ(Lima)にある悪名高いサンペドロ(San Pedro)刑務所で、サントス・アルセ・ラモス(Santos Arce Ramos)受刑者は加重強盗罪により18年の刑期をつとめている。取材に訪れた日は、刑務所内の作業場で、オーガニックコットンの布を慎重に裁断していた。

 サンペドロ刑務所とペルーの別の刑務所の2か所では、高級ブランド「シャネル(Chanel)」で働いた経験を持つフランス人デザイナー、トマ・ジャコブ(Thomas Jacob)氏(29)の助けを借り、受刑者らが洋服のブランドを立ち上げた。自分たちのアーバンスタイルを世に広めながら、ファッションで汚名を返上しようというのだ。

 ジャコブ氏が創設した「ピエタ(Pieta)」は、社会的に意識の高いブランドを自負している。サンペドロ刑務所とサンタモニカ(Santa Monica)女子刑務所の受刑者30人が、同ブランドの服作りを担当している。

 得意とするのはラフなアーバンルック。モノトーンや迷彩色を基調としたTシャツやパーカー、ジャケットなどがそろう。

 フランスのビジネススクールINSEECを卒業したジャコブ氏がピエタのアイデアを思い付いたのは2012年。サンペドロ刑務所内でフランス語を教えていた友人に招かれたのがきっかけだった。

 刺激を受けた彼はたちまち、野心的な新プロジェクトに乗り出し、刑務所に洋裁の作業場を設置する許可を求めた。そして、自身の新ブランドに専念するため、当時働いていたシャネルを辞めた。当時のことについてジャコブ氏は「人類のダークサイドである刑務所からインスピレーションを受けた」と話す。

■「ダークサイド」から生まれるデザイン

 ジャコブ氏がデザインし、受刑者らが服を作る。「すべての工程をここで完結させるのが狙い」と彼は言う。受刑者らの手による2016年コレクションは、インターネット上で販売される。

「ピエタ」では週に約100枚のTシャツを製作する。価格は1枚35ドル(約3700円)。過去3年余りで、1万2000点以上のアイテムを販売した。

 サンペドロ刑務所内の小さな作業場は、レクリエーション場の一角にあり、狭い空間にミシンが何台も置かれている。ここで週2回、ジャコブ氏が搬入する生地を服に仕立てる受刑者らには、売り上げの一部が支払われる。

 麻薬密売で15年の刑期をつとめているカルロス・ウリベ(Carlos Uribe)受刑者(67)は、稼いだお金で塀の外にいる家族に仕送りができると語る。

「われわれはトマのように、自分たちを信じてくれる人を必要としている」と話すウリベ受刑者。そして、「われわれだって労働力になり得る。働くことは罪をあがなう一助となり、家族に送金もでき、生産的なことをしているという実感が持てる。われわれだって役立たずではないと思えるんだ」と訴えた。(c)AFP/Luis Jaime CISNEROS