【11月11日 AFP】選手のドーピング違反隠蔽(いんぺい)に協力していたとみられる警察の追っ手をかわし、ホテルの窓から逃げたというロシアのドーピング・コントロール・オフィサー(DCO)による体験談は、同国の組織的ドーピング事情を鋭く暴き出している。

 これは、他の衝撃的なニュースに隠れてしまう話かもしれないが、9日に世界反ドーピング機関(WADA)の独立委員会が報告した内容を裏付けるような出来事だ。現役の検査員として働くこの男性は、WADAと独立委員会に対して、冷戦下の小説を彷彿(ほうふつ)させるような証言を行っていた。

 男性はその日、首都モスクワ(Moscow)の約500キロ東にあるサランスク(Saransk)という街で、選手の検体を受け取ったところだった。しかし、ここで警察による執拗(しつよう)な詮索を受けたという。

 匿名を希望する男性は、「私が何時間もかけて説明したとき、検体を探す警察官がホテルの部屋の前で待ち構えていた。それから(モスクワまで持っていくことになっていた)検体と私を電車まで無事に送り届けたいと言い出したんだ」と振り返った。

「モスクワの警察は、私の到着を知った上で待ち構えていた。検体がモスクワ研究所に預けられるのを見届けるためにね」

 WADAの報告書によれば、同研究所はおそらく非公認の機関と共謀して不正を行い、ドーピング違反の疑いがある検体を破棄するなどしたという。研究所は現在、公認を停止され、一時的に閉鎖されている。

「そこにはコーチもいた。数年間で20件以上のドーピングに関わっていて、私の目の前でモスクワ研究所に電話をかけるなり、翌日に届く検体の番号を告げていた。警察がそれを監視するよう念押ししていたし、研究所は何をすれば良いか分かっていると言っていた」

 これを知った検査員の男性は、選手の検体を「安全に管理」するため、ドラマのような方法で当局の監視を逃れることになる。

「違う電車に乗るため、夜中にホテルの窓から抜け出した。明かりとテレビをつけっぱなしにして、室内に誰かがいるように見せた」

「モスクワの駅でも警察が待ち構えていたから、全力でそれを振り切って、違う人に検体を預けたんだ」

 協力者はその後、スイス・ローザンヌ(Lausanne)の研究所に問題の検体を送り、その4つから陽性反応が出たという。

 しかし、スイスに検体を届けた協力者はそれ以上の行動を制限され、検査員の男性については、母親ら親類にまで脅迫が及んだという。(c)AFP