【10月2日 AFP】ナチス・ドイツ(Nazi)の迫害から研究者を逃すために1933年に創設された英国の財団が、今度はシリアとイラクから研究者を避難させることに新たな使命を見出している──。

「私たちは紛争の影響を受けた国々の未来のため、そして、おこがましいかもしれないが、世界の未来のために働いている」と、危機的状況に置かれた研究者らを支援する団体「Council for At-Risk AcademicsCARA)」のスティーブン・ワーズワース(Stephen Wordsworth)代表は言う。

 CARAがナチスから逃し、他国で研究を続行できるよう協力した研究者は約2000人。そのうち16人は、後にノーベル賞(Nobel Prize)受賞者となっている。

 CARAは現在、140人の研究者と家族を支援しているが、彼らの多くは、いつか祖国の治安状況が改善された際には、帰国して国を再建することを希望しているという。「彼らがいなければ、国の再建はかなり難しいだろう。弁護士、医師、建築家などを養成することができないからだ」とワーズワース氏はコメントしている。

 CARAの年間予算は70万ポンド(約1億2700万円)。週に3~5件の要請があり、そのうち4分の3はシリアからだという。

 CARAは英国の大学100校以上と、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツの教育機関とも提携を結んでいる。CARAの役割は、祖国を逃れてきた研究者らの必要経費が免除されるよう各大学と交渉し、住宅費や生活費などを支援することだ。

 例えば、イラクのバグダッド大学(University of Baghdad)で英語と米国詩の博士号を取得した後、バグダッド市内の別の大学で指導に当たっていたナディア・ファイズ(Nadia Faydh)さん(37)は、イスラム教シーア派(Shiite)民兵からの脅迫を受け、追い込まれていた。しかし、CARAによって保護され、現在は、英ロンドン大学キングスカレッジ(King's College London)で研究員として安定した職を手に入れている。

 ワーズワース氏は、2003年以降のイラクで、故意に狙われ、殺害された研究者は約450人に上ると話し、「彼ら(研究者たち)は、厄介な質問をする人間だと思われている。そして脅威とみなされ、根絶やしにする必要があるとの理由から殺されている」とその背景にある社会的な歪みを説明した。(c)AFP/Maureen COFFLARD