【1月2日 AFP】世界最古の油井(ゆせい)があるのは、米テキサス(Texas)州でもサウジアラビアでもない。南ポーランドの小さな村ブブルカ(Bobrka)は、世界初の石油採掘が行われた場所で、今も村の経済が潤うには十分な量の石油を産出している。

 1860年にこの地で石油採掘を率いたのは、灯油ランプ(ケロシンランプ)を発明した薬剤師、イグナツィ・ウカシェヴィチ(Ignacy Lukasiewicz)氏だ。ブブルカで1874年までに掘削された油井は計111か所に上った。最も深い油井は深さ150メートルあったという。

 ブブルカで石油産業の歴史博物館を運営するバルバラ・オレイェジ(Barbara Olejarz)氏は、1854年の油田開発と世界初の石油会社設立を記念してウカシェヴィチ氏らが建てた記念碑を指さしながら「彼のおかげで、ブブルカは石油産業発祥の地となった」と語った。

 ウカシェヴィチ氏は1822年、当時オーストリア・ハンガリー帝国下にあった現ポーランド南部のザドゥシュニキ(Zaduszniki)で生まれた。薬剤師の資格を取得後、カルパティア山脈東部で発見された石油に関心を持った。

 時に発火や爆発にも見舞われつつ、実験を重ねて原油の精製に成功した同氏は1853年、現ウクライナのリビウ(Lviv)近郊の病院で灯油ランプを使用。翌1854年、南ポーランドの町ゴルリツェ(Gorlice)にケロシンを使った世界初の街灯を誕生させた。

 ウカシェヴィチ氏は、貧しいガリツィア(Galicia)地方の人々の生活向上のため、職業訓練学校や社会保険を立ち上げ、大学の奨学金を出資し、教会や修道院も建設したが、石油産業のパイオニアであるにもかかわらず謙虚な性格だったため、その名は国外ではほとんど知られていない。

 オレイェジ氏は「彼は町の話題になりたがらなかった。目立つことも嫌った」と説明する。「聞くところによるとロックフェラー本人だか、財閥関係の使者がウカシェヴィチ氏の元を訪ね、ケロシンの精製方法について助言を求めたそうだ。ウカシェヴィチ氏は彼らに何もかも教えた」と話す。

 ロックフェラー側が助言に対していくら払えば良いかと尋ねたところ、ウカシェヴィチ氏は、自分は人々の幸福のために働いているので金銭は要らないと答えたと伝えられている。ロックフェラー系石油企業は後に、米石油大手エクソン・モービル(ExxonMobil)となる。

 一方、専門家によると、ポーランドの現在の石油生産量は日量2万バレル(年730万バレル)と、国内需要の4~5%をまかなうにとどまっている。(c)AFP/Stanislaw Waszak