しかし、英ダラム大学(Durham University)国境研究センターのフィリップ・スタインバーグ(Philip Steinberg)氏はこう指摘している。「システム変更という観点からみると、たとえどれほど過激に見えたとしても、イスラム国が『国(State)』として存在することに魅了されているようにみえる。

 彼らが最初にやったことの中には、従来の国家機関の創設や旅券や通貨の発行があるが、それらはすべて国境を持つ国家が行いそうなことだ。さまざまな面で、イスラム国は国境のある世界を認めているといえる」

■ウクライナの前例はコソボ

 他方、ウクライナ危機に対するロシアの介入は、ロシアが再び旧ソ連圏に対する影響力を取り戻し、欧州連合(EU)の東方拡大を阻止する動きだとして不安をかき立てている。

 ウクライナへの介入以前にもロシアは、グルジアから離反したアブハジア(Abkhazia)と南オセチア(South Ossetia)で支配力を強め、EUに対抗するユーラシア経済同盟(Eurasian Economic Union)をアルメニア、ベラルーシ、カザフスタンとともに発足させようとしている。

 しかし、フーシェ氏が指摘するのは、クリミア編入でロシアが国際法を無視していると非難されているが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国もまた「真っ白」ではないという点だ。NATOは1999年、セルビアと同国の自治州の一つだったコソボ(Kosovo)の紛争を終結させるために介入したが、最終的にこれが08年のコソボによる一方的な独立宣言へとつながった。

 フーシェ氏は「ある意味、国境不可侵の原則は、セルビアが絡んだ部分では尊重されなかった。コソボが武力によって孤立させられた自治州だったからだ」と説明する。そして、ロシア政府がウクライナに介入した際の「前例」として利用したのが、コソボだったという。

■指導者たちの最終的関心は「自らの権力強化」

 しかし国境研究センターのスタインバーグ氏は、最終的に「今現在一定の権力を握っている者たちの利益に常になるのは、安定だ」という。

 イラクの閣僚だったライド・ファーミ(Raed Fahmi)氏は最近の発言で、アラブの民族主義者たちは長年、アラブの団結と恣意的な国境の排除を叫んできたが成功しなかったと述べ、それは「時間が経つと指導者たちは皆、それぞれのアラブ諸国の中での自分たちの権力強化に、集中したからだ」と指摘した。(c)AFP/MARIANNE BARRIAUX and VALÉRIE LEROUX