■観光モデル転換や集落移転も

 こうした中、アルペン諸国は、近い将来に気候変動を止めたり、逆行させたりすることはできないとして、気候変動への適応に焦点を移している。

 例えばスキーシーズン中、積雪状態を保つためにスノーマシーンに投資してきた標高の低い地域では、マーケティング戦略を大胆に方向転換した。一例であるスイスのシュトックホルン(Stockhorn)地方ではスキーリフトを解体し、冬場はウィンターハイキングに力を入れる方針だ。

 また、オーストリア北部ではドナウ(Danube)川の洪水対策として、防波堤を建設する代わりに、流域の約250世帯を移転させるという策をとった。移転費用は9000万ユーロ(約130億円)超だった。

 洪水や土砂崩れ、土壌の浸食といったリスクを抱える地区を特定し、構造物を建設しないようにする「危険区域計画」は一般的に策定されている。

 山岳地帯のチロル(Tirol)地方では、1億2500万ユーロ(約185億円)を投じて、全長17.5キロに及ぶ雪崩防護柵を道路沿いに建設。これにより道路の通行が一年中可能となった。

■生きることは終わりなき適応

 オーストリア・インスブルック(Innsbruck)にある山岳調査学際研究所(Interdisciplinary Mountain Research Institute)に所属する氷河専門家、アンドレア・フィッシャー(Andrea Fischer)氏によると、山岳地帯における気候変動を最も象徴する氷河は、同国内で過去15~20年の間に15%も縮小したという。氷河が後退するにつれて、万年雪の限界線や森林限界の標高も上がっており、河川の水量も減少している。

 だがフィッシャー氏はAFPに対し、地域社会や地元当局はこの変化に対処できると述べ「人類はいつも困難な事態に適応し対処してきた。定常環境というのは好ましい考えだが、人生はそうではない。生きることは終わりなき適応なのだ」と力説した。

 一方、リーベルニッヒ氏は気候変動に対処する戦略について、アルプス周辺諸国はまだ策定を進めている段階だが、それでもすでに他の地域の模範になり得るだろうと話す。「世界の他の山岳地帯をみると、経済的に脆弱な地域が多い。だが、アルプスは違う」

 同氏によれば、もしも早い段階で地域の自治体同士が協力し、必要な調査を積み重ねれば、「こうした手段を持っていなかった地域が手本とすることができる」という。(c)AFP/Sim Sim WISSGOTT