■文芸部の記者になってスクラム卒業?

 OPEC番を何年か務めた後、もっと穏やかな仕事をしたいと思ったAFPのミリアム・シャプランリュー(Myriam Chaplain-Riou)記者は、文芸部の記者としてパリに配属された。文芸記者といえば、サンジェルマン・デ・プレ(Saint-Germain-des-Pres)のカフェでカップ片手にアンドレ・ジッド(André Gide)について語る、といった仕事だと思うだろうか?それは全くの間違いだ。

 新たな受け持ちの一つは、仏文学界の最高賞といわれるゴンクール(Goncourt)賞。毎年11月に行われるこの「ゴンクール賞の発表と、OPECのギャング・バングにはほとんど違いはなかった」という。

 ゴンクール賞の発表が行われるのは、パリ2区にあるミシュラン一つ星レストラン「ドルーアン」(Drouant)。発表は審査員たちが個室で昼食をとり終わった後だが、その頃には、報道陣の待つ1階が「ラッシュ時の地下鉄並み」になっている。「階段の上から審査員が受賞者の名前を読み上げるのだが、昨年まではマイクも使っていなかった。現場は騒然としていて何も聞こえないから、ますます殺気立っていく。受賞者が分かれば分かったで、誰もが自分の社に電話をかけるから、携帯電話回線がパンクしてつながらない」

 それだけでは終わらない。候補者はたいてい近所をうろうろしながら発表を待っているのだが、受賞が決まると数分後には凱旋さながら、このドルーアンに乗り込んで来る。

「2階の審査員たちのところへ向かう作家を、記者たちが追って階段を上る。踏みつけあい、誰かのカメラで強打され、悪態をつく。床に落とした携帯は戻って来ないと思った方がいい。そうやって小さな2階の部屋に全員がなだれ込む。審査員はまだ昼食が乗っているテーブルに押し付けられ、受賞者は壁に釘付けで窒息寸前。2010年にミシェル・ ウエルベック(Michel Houellebecq)が受賞したときは最悪だった。土砂降りだったし、店の外に組んであった足場が集まった人々に押されて揺らいでいた。もう少しで大事故になるところだった」

「さらに追い打ちをかけるのが、タダ飯にありつこうとする通行人。記者たちはまったく食べる時間などないのに、何故かドルーアンはいつも1階に小さなビュッフェを用意する。まったく関係のない通行人が、報道陣がいるのを見て店に入り、部屋の真ん中でセルフィー(自分撮り)を撮ったり、皿の上に山と盛ったゆで卵にマヨネーズをかけていたりする。当然、取材ラッシュが始まれば、それは全部吹っ飛ばされて、私たちの頭上に降ってくる──ゴンクール賞の発表はダンテの『神曲・地獄篇』だ」

「審査員にはそれをまったく変える気がない。それが好きなのだ。彼らにとって、それこそが栄光の瞬間だから」