世界自然保護基金(WWF)によれば、世界の海を移動するバラスト水は年間100億トン超。船のバランスを取るために中国・上海(Shanghai)で積み込まれた水がオランダ・ロッテルダム(Rotterdam)の港で捨てられ、北アフリカのモロッコ・タンジェ(Tangiers)で注入された水が南米チリ・バルパライソ(Valparaiso)で排出される。

 この過程で、約7000種もの魚や甲殻類、海藻類、無脊椎動物、バクテリア、そしてウイルスまでもが毎日、誰にも気付かれることなく世界中の海を旅している。

 こうした侵入種は、漁業や養殖業、水道事業にも大惨事をもたらしかねない。産業のみならず、海洋生態系に依存して成り立っている地域社会にも影響を及ぼすのだ。

「いったん外来種が侵入したら、もはや取り除くことはできない」とWWFの海洋専門家、スーザン・ウォルムスリー(Simon Walmsley)氏は指摘する。「もともと存在した種と争い、多くの場合は外来種のほうが勝つ」。新しい環境で繁栄する外来種の中には、病原菌や在来種の天敵、寄生生物も含まれる。

 WWFは、バラスト水で運ばれた侵入種を、野生生物の個体数を1970年~2010年に半減させた一因に挙げている。侵入種による世界の経済的損失は、2004年~05年の1年間だけで70億ドル(約7500億円)を超えたという。

「しかも、この傾向はグローバリゼーションに伴い過去30年で加速している」と、フランス国立海洋開発研究所(IFREMER)のダニエル・マッソン(Daniel Masson)氏は言う。

 WWFはバラスト水管理条約の迅速な批准を訴えるが、ネックとなっているのが、バラスト水処理装置を設置する上で船主が負担することになるコストと時間の問題だ。設置にかかる追加コストは、船舶1隻あたり100万ユーロ(約1億4000万円)にもなる。

 しかしWWFに言わせれば、何もしないことで海洋生態系や人々の生活にまで影響を及ぼす損失のほうが甚大だ。「手をこまねいていれば、外来種の侵入は続き、環境にも社会経済的にもコストは増大するだけだ」と、ウォルムスリー氏は述べている。 (c)AFP/Claire SNEGAROFF