【11月2日 AFP】福島県いわき市にあるフランス料理店のオーナーシェフ、萩春朋(Harutomo Hagi)氏(37)は、スモークチキンやわさびといった地元の食材をスーツケースに詰め込み、ある使命を果たすためにフランス入りした。原発事故後に生産された食材の安全性を裏付ける検査証明書を携え、福島産の食材を世界にアピールするため、世界有数の美食の都パリにやって来たのだ。

 福島第1原子力発電所から約30キロ離れた萩氏の店は、原発事故から数か月間、放射能汚染に対する不安から客足が途絶えた。日本の農業の主要産地であるこの地域から大勢の人々が避難し、今や休閑地の比率が日本一となっている。

 しかし、萩氏は地元にとどまる道を選んだ。それどころか、域内で生産された食材のみを使用することを決意。そのコンセプトが評判を呼び、店は持ち直した。萩氏は現在、地元に残った人々の生活再建に協力する意志も固めている。

■仏首相やエリートシェフたちと交流

 萩氏はこの1か月間、世界の首脳や王室の専属料理人を現在務めるエリートシェフの団体「クラブ・デ・シェフ・デ・シェフ(Club des Chefs des Chefs)」によって欧州に招かれ、パリ市内の仏大統領官邸エリゼ宮(Elysee Palace)に2週間滞在、その後モナコ公国も訪れた。エリゼ宮やモナコ大公アルベール2世(Prince Albert)の公邸の厨房に入って腕を振るい、フランソワ・オランド(Francois Hollande)仏大統領やアルベール2世に面会した際には、欧州産の食材を使った和食も披露した。

 さらに、パリ市内のマンダリン・オリエンタル・ホテル( Mandarin Oriental Hotel)に入っているミシュラン(Michelin)2つ星レストラン「シュール・ムジュール(Sur Mesure)」のシェフ、ティエリー・マルクス(Thierry Marx)氏と料理を共作。萩氏は日本から持参した福島産の若桃やスモークチキンを使用し、その食材に対する誇りを語った。

 クラブ・デ・シェフ・デ・シェフのジル・ブラガール(Gilles Bragard)会長は、萩氏の今回の欧州訪問が、福島のレストラン店主や農家の応援に一役買うことに期待を示した。原発事故による汚染は福島県の大半には影響していないが、同県産の食材は大幅に値が下がり、今も消費者に敬遠されている。同会長は「フランスで消費されたら、日本人も(福島産食材に対する)信頼を取り戻し、再び買うようになるかも知れない」とコメントした。

 萩氏自身にとっても今回の欧州訪問は、士気が高まる旅となった。欧州のシェフたちから今後も頑張るよう励まされ、改めて意欲が沸いてきたと述べる同氏は、福島再建に向けた取り組みを今後も呼び掛けていくと語った。(c)AFP/Caroline TAIX