【6月21日 AFP】熱狂的なサッカー好きの国として知られるブラジルで、路上に繰り出す若者たちといえば、これまではサッカーを楽しむ人々だった。しかし今、ブラジルの若者たちは国内で開催中のサッカーの国際大会、コンフェデレーションズカップ2013(Confederations Cup 2013)に合わせて大規模なデモを繰り広げ、過去10年間で急速に増加した中流階級を代表して不満と怒りの声を上げている。

 17日に全国で行われたデモには計25万人が参加し、過去20年間で最大規模となった。20日のデモはさらに拡大し、全国80都市で100万人以上が抗議の声を上げた。北アフリカと中東の民主化運動「アラブの春(Arab Spring)」になぞらえ「熱帯の春(Tropical Spring)」と称する声もある。

 ブラジルは抗議デモが少ないことで知られ、特にこの10年間は所得と雇用の面で社会的に進歩を遂げた後でもあり、デモは驚きをもって受け止められている。

■SNSで広がった抗議

「僕らが死んだ人間じゃないことを示す第一歩だ」と、首都ブラジリア(Brasilia)のデモで国会議事堂の屋根に200人の仲間と共に登ったビジネスマン、ブルーノ・パスタンさん(24)は語った。「ブラジル人はサッカーのためなら何でも我慢する、サッカーのために生きていると思われていたからね」

 最初にデモが始まったのはサンパウロ(Sao Paulo)。公共交通機関の運賃値上げに対する抗議だった。だが、ソーシャル・サイト(SNS)を通じて抗議は各地の都市に飛び火し、次々に新たなスローガンが登場した。

 主要なスローガンの1つは、コンフェデレーションズカップと来年のサッカーW杯の開催に推計150億ドル(約1兆4600億円)もの莫大な費用がかかることへの批判だ。デモ参加者たちは、この費用は教育と保健政策に使われるべきだったと主張している。

 あるデモ参加者は、ブラジルの病院の水準の低さとスタジアム建設にかけた莫大な費用に皮肉をこめて、こう叫んだ。「あんたの息子が病気になったら、スタジアムに連れて行け!」

■増える中流層、減速する経済成長 ― 社会整備の遅れに不満

 ブラジルの抗議デモには、トルコやエジプトで起きた抗議行動との類似点もある。

「背景に大きな社会変化がある。特徴は、新たな社会階層の出現だ」と、コンサルティング会社Gradual Investimentosのエコノミスト、アンドレ・ペルフェイト(Andre Perfeito)氏は指摘する。

 ペルフェイト氏によると過去10年で、4000万人のブラジル国民が中流階級入りした。現在は人口の半分が中流層だ。消費は爆発的に増加し、教育水準も目に見えて上がった。

 ところが、ジルマ・ルセフ(Dilma Rousseff)大統領が政権に就いてから2年、経済成長は2011年の2.7%から12年には0.9%へと急減速。その一方で物価は今年5月時点で前年同月比6.5%増と上昇し続け、市民の家計を圧迫している。調査会社によれば、ルセフ政権の支持率はインフレの影響で8ポイント低下した。

「人口の大部分、特に都市部の人々は、劣悪な公共交通機関、壊滅的な保健制度、まん延する暴力に不満を感じている」と、カンピナス大学(University of Campinas)の社会学者、リカルド・アントゥネス(Ricardo Antunes)氏は説明する。「これらの問題はずっと所得と雇用の増加に補われていた」が、今やそれも限界に達したという。

 コンフェデレーションズカップがこうした怒りを表明する媒介となったのは、「会場となる記念碑的なスタジアムの建設に天文学的な費用がかかった」ためだとアントゥネス氏は分析している。

■特定の政党に属さない新しいデモ参加者

 長年に及ぶ政治・金融スキャンダルの末に路上に繰り出し、腐敗を糾弾する抗議デモの参加者たちは、特定の政党や労働団体に所属しているようには見えず、さまざまな政党や労組を無差別に批判している。

「不満は、問題を解決してこなかった主要政党全てに向けられている」と、ブラジリア大学(University of Brasilia)の歴史学者、ビルジリオ・カセッター(Virgilio Caixeta)氏は言う。

 一方、ルセフ大統領は18日、路上からの「変革」の声に耳を傾けなければならないと述べ、現政権で実行すると約束。社会的・経済的変化を遂げたブラジルに「より多くを求め、また求める権利を有する市民」が出現したとの見方を示している。(c)AFP