【5月10日 AFP】「南北間にある脅威や政治情勢について心配しているお客さんは一人もいません──最も差し迫った問題は、結婚することなんです」。たとえそこに「核戦争の脅威」があったとしても、生涯の伴侶探しは、その他のあらゆる事柄に勝る大切な事だと、「南北を結ぶ」結婚相談所を経営するホン・スンウ(Hong Seung-Woo)さんは強調する。

 昔ながらのご近所さんによる仲人から、インターネットの専門サイトまで、韓国にはお見合いの文化が古くから根付いている。ただ、ホンさんが営む、韓国人と北朝鮮から逃げ出した、いわゆる「脱北者」間での結婚紹介業は「ニッチな市場」といえる。

 韓国人男性と脱北者の女性の結婚件数に関する公式なデータは存在しないが、約1000組と推定されており、この市場に特化している結婚紹介業者は、ホンさんの紹介所をはじめ、韓国内に10社ある。

 ホンさん自身も、2006年の離婚直後に友人から脱北者の女性を紹介され、後に再婚している。「(つきあい始めた頃は)もしかしたら北朝鮮のスパイなのではとも考えた」と当時を振り返る。結婚から7年たった今、2人は幸せに暮らしている。また、結婚後に夫婦で立ち上げた結婚仲介業は、これまで約400組を取り持ってきた「業績」を誇る順調ぶりだ。

 朝鮮戦争(Korean War)の休戦協定から60年、正式には今も戦争が続いているため、国境を越えた一般市民の交流は、基本的には存在しない。さらに今年2月に北朝鮮が核実験を行ったことから、現在は南北双方が互いを非難する状況が続き、また北朝鮮は核を用いた先制攻撃に言及するなど、韓国に対して敵対的な発言を繰り返している。

 しかし、そうした中でもビジネスはいたって順調と述べるホンさんは、「北朝鮮が何を言おうと、多くの人たちのために『愛』を見つける仕事をするだけです」と淡々と話す。

■韓国の厳しい婚活市場

 しかし実際には、ホンさんが間を取り持つ結婚は男女いずれにとっても、ロマンスよりも「現実」に基づいたものが多いようだ。

 1953年の休戦以降、脱北者の数は約2万5000人に上る。大半はひどい食糧難が発生した90年代半ば以降に脱北しており、その約70%が女性だ。北朝鮮では男性の行動はより厳しく規制されており、国境を越えるのはより困難だとされる。

 だが一般的に、労働市場で役に立つスキルを持たず、韓国社会で差別的な扱いを受けることが多い脱北者女性たちにとって、資本主義で超競争社会である韓国の現代社会での生活は苦しいものになりがちだ。こうした状況から、北朝鮮出身の女性たちの多くは韓国人男性との結婚に目を向けるという。

 2009年に平壌(Pyongyang)を逃れ、翌年に韓国人男性と結婚したある脱北者の女性は、韓国で全く新しい生活を始めたいなら、脱北者男性との結婚は勧めないと話す。韓国人男性と結婚した方が、「ずっと短期間で新しい世界に適応できる」とし、実際に友人の脱北者女性たちも、大半が韓国人男性と結婚したという。

■韓国人男性は結婚に夢を持ちすぎなのか?

 韓国では「北朝鮮女性の方が美しい」と伝統的に考えられてきたというが、韓国人の男性にとって、脱北女性たちの本当の魅力は、彼らに対しての「期待値」が高くない点だという。

 急速な経済発展は韓国社会に広範な変化をもたらした。都市部から離れ、地方に嫁ぐことを望む女性や、夫の両親と同居して「伝統的な妻の役割」を果たしたいと思う女性もいまや少なくなったという。このような現状を背景に、地方に暮らす多くの男性たちは、結婚相手を探すためにベトナムなどをはじめとする東南アジア圏に目を向けるようになった。

 ホンさんは、結婚相談に訪れる客の大半について、韓国人女性との結婚は難しいと考えている。容姿や収入の問題、さらには家が都市部にないことなどで敬遠されがちになるようだ。一方で、北朝鮮の女性については、より「受け入れる」傾向があると述べた。

「高い教育を受け、甘やかされてきた韓国人の女性たちは(結婚相手に対して)あり得ないほどに高い期待を持っている。一方の脱北者の女性たちはさほど打算的ではなく、謙虚で料理もずっとうまい」

■「北朝鮮人女性に対するステレオタイプ」専門家

 しかし、このホンさんの考え方に対し、韓国統一研究院(Korea Institute for National Unification)のイ・クムスン(Lee Keum-Soon)氏は、「韓国社会に定着している北朝鮮人女性のステレオタイプ」にすぎないと指摘する。

「韓国の男性たちには共通して、北朝鮮の女性は従順で、経歴についてもあまり批判的ではないとの幻想がある」

 さらに同氏は、そうした思い込みに基づいた結婚の未来には、多くの疑問が残ると強い口調で指摘した。脱北者が韓国社会に溶け込むにあたって困難に直面することは確かだが、「弱い立場の北朝鮮女性」ならどんなことでも妥協してくれるだろうとのイメージは、恐らく検討違いだ。

 北朝鮮から逃げ出し、中国を経て韓国にたどり着いた「強さ」を持っている女性なら、韓国人男性が夢見る「伝統的な役割」への適応を超えて、さらに「成長」できることだろう。(c)AFP/Jung Ha-Won