【11月19日 senken h】新宿とファッション――両者の関係にピンと来ない人もいるかもしれない。しかし、ファッションは時代を映す鏡。さまざまな文化が共生し、多種多様な人の営みが歴史的に折り重なって新しいにぎわいを常に生み出し続ける新宿は、ファッションフィールドでも存在をもっとアピールして良い街だ。

 このテーマをビームス創造研究所・南馬越一義さんにぶつけてみた。阿佐ヶ谷(杉並区)に暮らし、中央線文化をこよなく愛する南馬越さんにとって、新宿とはどんな街だろう。

□出会いが突然やってくる面白い街

――南馬越さんにとって新宿とは。

 阿佐ヶ谷に住んでいると新宿から吉祥寺の間が生活圏ですが、新宿は一言で言うと、映画を観に行く街ですね。昔は歌舞伎町のコマ劇場周辺などに行っていましたが、今は「バルト9」が多いですね。ここはシネコンの中でも、名画座的な要素が強いと映画ファンの間で評価が高いです。観終わったら、末広通りの立ち飲みに寄ったり、マルゴ(新宿3丁目のワインバー)でワインを飲んだり。街全体が寛ぎの空間ですね。

 新宿はビームスが初めて自社ビルを持った街ですし、そこにギャラリーを開設していた時の思い出がいろいろあります。その頃の記憶では、新宿で友人と飲んでいたら「マシュー・バーニー(アメリカの現代美術家)と一緒に飲んでいるからおいでよ」といきなり電話があって、ゴールデン街の店に移動して、彼らと意気投合。深夜まで盛り上がったことも。意外な出会いが突然やってくる面白い街ですよ。

 周縁に強力な磁場を持つことも魅力ですね。例えばお隣の中野ブロードウェイ。知人の海外アーティストは初めての来日で成田から中野の街にいきなりやって来たんですよ。新宿区内では神楽坂のような歴史のある大人の街が魅力を発していますし。

□リアルなファッションのアピールを

――ファッションというと渋谷のほうが脚光を浴びています。

 ファッションビジネスという点では、新宿のほうがずっと規模が大きい。渋谷はファッションの発信源というよりも、カルチャー寄りのような気がします。ギャル文化もそうでしょ。少なくとも僕にとっては、ファッションという感じはしません。

 新宿がファッションから遠いように思えるのは、区としても、街としてもあえて打ち出してこなかったからでは。この街はいつも活力があるので、あえて活性化する必要はないと思いますが、もし、ファッション振興に本気で挑もうとするなら、どこにでもあるファッションショーとかのレベルではなく、また、モードとか、アバンギャルドなものを無理に導入するのではなく、成熟したファッションリアリストの街として、新宿のアイデンティティーを自然体で表現してもらいたい。

 新宿のアイデンティティーの表現は難しいでしょうね。あえて言い切るとしたら、雑多感。映画「ブレードランナー」みたいな「都市の魅力」をこれからも発信し続けてほしい。

■南馬越さんセレクト/大好きな新宿この場所、この店
「雑多さが新宿の魅力。ベスト5なんて選べないよ!」と話す南馬越さんに無理をお願いしてピックアップしていただいた。

▽上海家庭料理の店 上海小吃(シャオツー)
歌舞伎町のディープな場所にあり、珍しいメニューも楽しめる。ママさんのキャラクターも人気のひとつ。

▽花園神社 酉の市
飾り熊手など縁起物を商う熊手市。今年は11月7日(水)、8日(木)、19日(月)、20日(火)に開催。

▽神楽坂 石かわ
旬の素材の良さを最大限に引き出し、豊かな時間が過ごすことができる老舗割烹。ミシュラン3ツ星店。

▽伊勢丹 新宿店
常に高級ファッションやライフスタイル分野で先端をひた走るパイオニア的百貨店。新宿の顔のひとつ。

▽映画館バルト9と末広通り周辺
映画を見た後に、寄席「新宿末広亭」を中心に飲食店が集まる商店街でのお食事も、乙なひととき。

(c)senken h

【関連情報】
上海家庭料理の店 上海小吃(シャオツー) 公式サイト<外部サイト>
花園神社 酉の市 公式サイト<外部サイト>
神楽坂 石かわ 公式サイト<外部サイト>
伊勢丹 新宿店 公式サイト<外部サイト>
新宿バルト9 公式サイト<外部サイト>