【12月12日 AFP】5つ星レストランのことなど、もう忘れてしまおう。モーリシャスのおばあちゃんと一緒に料理を作ったり、ベネチアの伯爵夫人と市場に買い物に行ったり――美食ツーリズムは既に別の未来へと向かい始めている。

 南仏カンヌ(Cannes)で前週開かれた富裕層向け旅行見本市「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット(International Luxury Travel MarketILTM)」では、グルメ旅行をしたい富裕層がもはや豪華なディナーだけでは飽き足らず、「体験」を求めるようになっている傾向が紹介された。観光産業もこれに合わせて転換しつつあるという。

 この新傾向は3~5年前から始まり、米英を中心に人気が出た。背景には、オーガニック(有機栽培)食品やその土地ならではの食べ物への関心の高まり、テレビのクッキング対決番組「マスターシェフ(Masterchef)」の世界的なヒットなどがある。

■モーリシャスのおばあちゃんの「本物」レシピ

 世界の高級ホテル・レストランが加盟する権威ある会員組織「ルレ・エ・シャトー(Relais et Chateaux)」のフランク・ファルネティ(Frank Farneti)支部長は、見本市の講演で、美食観光の成功の秘訣は「本物らしさ」をいかに生み出すかにあると語った。

 1つの例が「おばあちゃんの台所(Grandma's Kitchen)」だ。インド洋に浮かぶ島しょ国モーリシャスのリゾート・ビーチ、シャンティ・モーリス・ニラ(Shanti Maurice Nira)へのこのツアーでは高級レストランの代わりに、地元のおばあちゃんの自宅で手料理をご馳走になる。このおばあちゃんは実際に、ツアーを運営するホテルグループの従業員の祖母だ。

 おばあちゃんは、訪れたゲストたちとおしゃべりしながら、ありあわせの食材でハニーラム(子羊のハチミツ漬け料理)や魚のカレーといった土地の料理を作る。帰りには、おばあちゃんの手書きのレシピがもらえる。シンプルなこの体験ツアーは、シャンティ・モーリスを訪れる裕福な観光客の間で評判となった。

■通もプロも、お手本は「地元のアマチュア」

 こういった「新しい本物のディナー」の恩恵にあずかっているのは、ホテルやレストランの経営者だけにとどまらない。イタリア貴族から中国の主婦まで、地元の定番料理に詳しいアマチュアの個人がこぞって自宅を提供し始めている。

 伊ベネチア(Venice)中心部にあるパラッチーナ・グラッシ・ホテル(Hotel Palazzina Grassi)では、地元で最も著名な貴族の1人、エンリカ・ロッカ(Enrica Rocca)伯爵夫人に、名高いリアルト(Rialto)市場で新鮮な魚を買うコツを教えてもらうツアーを始めた。伯爵夫人から一族の歴史などを聞きながら、一緒に買い物をし、夫人の自宅でベネチアの特製料理を楽しむというプランで、価格はおよそ1000ユーロ(約10万4000円)だ。

「地元産」に飛びつくのは美食家の旅行者だけではない。

 富裕層向け旅行代理店アバクロンビー&ケント・インディア(Abercrombie and Kent India)では毎年、英ロンドン(London)のシェフたちを集めて、インド各地の香辛料市場を訪れるツアーを開催している。シェフたちはそこで、その土地の料理を研究するのだという。(c)AFP/Audrey Stuart

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