【6月21日 AFP】世界のどこかで、人口70億人目の赤ちゃんを身ごもった女性が暮らしている。その女性が暮らす場所は、おそらくアジアだろう。

 国連人口部(United Nations Population Division)によれば、人口70億人目の赤ちゃんは、ことしの10月31日に誕生する予定だ。その赤ちゃんは、都市部への歴史的な人口大移動にのみこまれ、都市部で生活するようになるだろう。

■アジア都市人口が急増へ

 アジアでは、2022年半ばまでに、都市部で暮らす人口が、地方で暮らす人口を初めて上回ると予想されている。アジア開発銀行(Asian Development BankADB)によれば、職や良い暮らしを求めて、都市部への人口大流入が起きるのだ。

 この流れはすでに始まっている。

 ADBによれば、今後20年以内に、約11億人が地方部から都市部に移住する。1日当たり13万7000人の計算だ。

 マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(McKinsey Global InstituteMGI)によると、インドは毎年、米シカゴ(Chicago)市にあるのと同じ規模の商業施設・住宅地を移住者のために作らなければならない。

 さらにMGIによれば、今後15年以内に、世界の人口上位600都市(世界GDPの約60%を占める)に、中国だけで新たに100都市が名前を連ねることになるという。

 1960年代と比較しても、世界の人口は2倍にふくれあがっている。60億人目の赤ちゃんですら、1999年10月12日に産まれたばかり。まだ11歳だ。

 都市部へ流入する移民は、豊かな暮らしを得られるのだろうか?この疑問に、専門家の多くは、驚くほど楽観的だ。だが人類は未だかつて、これほどの急速な都市部人口の増加を経験していない。

■「都市化こそが繁栄への道」

 人口爆発がもたらす問題は数多い。スラム街や疫病、犯罪、公害、インフラの不整備、大渋滞などなど。

 だが、古代ローマやアテネの時代より、大都市は人類の発展を促し、社会・経済的な発達の原動力となってきたと、専門家たちは語る。

 オーストラリアの人口統計学者で作家のバーナード・ソルト(Bernard Salt)氏は、AFPの取材に、「地球上で最も力強い場所は都市だ。知識と情報が蓄積され、政府機関が置かれ、アイデアが広まる場所だ」と語る。「もっとも優秀な人びとが、都市環境に結集することによるスリル感に、すべては由来している」

 ハーバード大教授のエドワード・グレーザー(Edward Glaeser)氏は、ことし出版した書籍の題名で、その主張をまとめている。書籍名は「Triumph of the City: How Our Greatest Invention Makes Us Richer, Smarter, Greener, Healthier, and Happier(都市の勝利:豊かに、賢く、エコに、ヘルシーに、そして幸福にする、われわれの最大の発明)」だ。

 グレーザー氏は著作で、「世界の貧しい地域では、都市が猛烈に拡大している。なぜならば都市化こそが貧困から繁栄への最も明確な道筋だからだ」と主張する。「欧米の都市が作り出した大いなる進歩は、21世紀の発展途上国の都市で、繰り返されることになるだろう」

■「都市で貧困が拡大」

 しかし、それほどの大変動が犠牲なくして起こるわけではないだろう。「地方部から都市への移行は、中流階級的な暮らしを自動的にもたらすわけではない。その途上で多くの人たちがこぼれ落ちてゆく」「これは1780~1840年の英国の産業革命で起きたことと全く同じだ。そこには多大な人類の悲惨さがあった」と、ソルト氏は指摘する。

 国連アジア太平洋経済社会委員会(United Nations Economic and Social Commission for Asia and the PacificUNESCAP)も、「貧困と格差の問題が最も集中しているのはアジアの都市部であることは明らか」と忠告する。「アジア太平洋の都市部では、住民の40%以上がスラム街に暮らしており、適切な住居がなく、基本サービスを受けられず、収入を得る機会も持てないでいる」

 アジアの都市を訪れた観光客は、放置されたごみ、交通渋滞、物乞いたち、そして広大な不法占拠地域に暮らす人びとの生活環境のひどさを見て、ショックを受けていると、ADBも指摘している。

■都市の意義とは?

 西洋の都会人は、派手な消費や都市生活のストレスにうんざりしていて、モノに囲まれない田園地帯や海辺での生活を求めているかもしれない。だがソルト氏は、それもぜいたくの一種なのだと語る。

「西洋人は、物がいくら買えても、社会的成功を収めても、そんなのは何の意味もない、などと言う。でも、中国の広州(Guangzhou)や上海(Shanghai)の人びとが、『消費は浅はかだ』などと尊大な主張をするとは思えないね」

 カナダやスイス、オーストラリアなどの、きれいで効率的な都市は「世界の住みやすい都市ランキング」の常連だが、住みやすいことと、その都市が愛されているかどうかは違うのだと、主張する専門家もいる。

「都市が魅力的でワクワクした場所になるのは、リッチな反面、不確実性にあふれるなど、複雑さを持っているから。村の生活の真逆だよ」と語るのは、ロンドン大学LSE(London School of Economics)都市計画科を創設したリッキー・バーデット(Ricky Burdett)教授。

 バーデット氏は、「アジアでは全体的に、成長と都市化は生活の質の向上をもたらした」と述べる。「世界のどこであっても、わたしは都市については楽観的だね」。それに都市の方が地方部よりも教育機会に恵まれている。「教育はすべてに通じる第一歩だ。経済的、社会的な幸福や健康の第一歩だ」

 だが都市部で成長した人口70億人目の子は、教育機会や職を大勢の人びとと競い合うことになるだろう。2025年6月15日には、世界人口80億人目の赤ちゃんが誕生するとみられている。(c)AFP/Lawrence Bartlett