【1月28日 AFP】先のハイチ大地震で、貴重な品々も粉々になってしまった――。ハイチの首都ポルトープランス(Port-au-Prince)近郊ペチョンビル(Petionville)の自宅で、1人の女性が思案に暮れている。

 スイス人のマリアン・レーマン(Marianne Lehmann)さん(73)は、1957年にこの地に居を定め、30年以上にわたりブードゥー教の呪術道具を収集してきた。角を生やした神の像や人間の頭蓋骨が所狭しと並ぶ部屋で、壊れた収集品を眺めながら「被害は一部だけで済んだようです」と少し安堵(あんど)も見せる。

 12日の大地震で近所の家々はほぼ全壊したが、レーマンさんの家は無事だった。そのため「この家は(ブードゥーの神の)ご加護を受けている」とささやかれているという。 

■神聖なアートを守るという使命

 レーマンさん自身は、ブードゥー教を信じているわけでも、実践しているわけでもない。約30年前、貧しい地元住民から3本の角を生やした神像を買ってくれないかと言われたのがきっかけで、「神聖なアートを守る」という使命に突き動かされ、収集に心血を注いできた。集めた呪術道具は今や3000点以上に上っている。ブードゥー教の文化センターや博物館建設の夢は、今回の地震をきっかけに、いっそう強くなったという。

 レーマンさんは、なたと頭蓋骨が供えられた祭壇に愛おしそうに目をやり、「ぞっとするような道具もあるかもしれませんが、それも奴隷制の過酷な暴力に対する一種の反応なのです」と説明した。

 ブードゥー教はアフリカの伝統に由来しており、ハイチでは1804年に独立を導いた奴隷の反乱、いわゆるハイチ革命後も根強く残っている。今日でもハイチの人びとは「国民の60%がカトリック、40%がプロテスタント、100%がブードゥー教」という言い方をする。(c)AFP/Virginie Montet