【東京 9日 上間常正】高級機械式時計人気が続く中で、イタリアのオフィチーネ・パネライ(OFFICINE PANERAI)はその独自な機能と伝統でファンの数を急速に増やしている。そのパネライの、リシュモングループのもとで国際市場へ向けた腕時計の発売開始10周年を記念した展示イベントと新製品の発表会が先月、各国のメディア関係者らを集めてイタリアのフィレンツェで開かれた。  

 パネライには、イタリア海軍への製品供給で培った高度な防水性や視認性など、多くの優れた独自技術がある。それがたった二つのシンプルなモデルに込められてきた。10周年の新製品も、新たなモデルではなく、ムーブメントの画期的ではあるが連続的な進化というパネライらしい形で表現された。  

 フィレンツェの歴史的建造物オルサン・ミッケーレで開かれた記者会見で、オフィチーネ・パネライのアンジェロ・ボナーティCEOは「私たちはなによりも機能性にこだわってきた。パネライの伝統やロマンも、そのことによって未来に向かって進化し続けることができる」と語った。  

 今回の新製品には、新たに開発された4つのキャリバー(型番)のムーブメントが装備されている。今回特筆すべきなのは、新たに自社開発された新キャリバー、P2005に搭載されたトゥールビヨンとP2004のクロノグラフだ。  

 トゥールビヨンは地球の重力による誤差を補正する装置だが、パネライは小型でかつケージの回転が他メーカーのものより高速なため、より高い補正精度が可能になった。この装置の魅惑的な動きを、ふたの裏側から見ることができる。クロノグラフは初の完全自社製によるもので、時間を計測するスタート/ストップ/リセットを一つのボタンで操作することができる。

 P2003は巻き上げなしで10日間動くことが可能。P2002にも8日間のパワーリザーブのほか、ゼロリセット機能や24時間針を使った独自のGMT機能などが盛り込まれている。今回の新キャリバーでは、他のモデルとの部品の共通化もこれまでになく進められた。コストはなるべく抑えていたずらに高価にならないようにする努力もパネライらしい工夫の一つだ。    

 新キャリバーを搭載し、ケースやカバーグラスに最高級の素材を使ったいずれも10気圧防水の「ラジオミール テンデイズGMTホワイトゴールド」など3機種の特別限定品が、今年夏ごろに発売される予定だ。  

 新製品の発表と同時に、展示会「ロロロジオ パネライ」がフィレンツェのレ・パリエーレと呼ばれる歴史的建物で開かれた。会場はパネライのこれまでの名品を集めた「過去」、新製品や時計の製作現場や工具などを展示した「現在」と「未来」の3部で構成。パネライの歴史とこれからの方向が、展示を通して具体的に分かるような仕組みになっていた。展示は具体的かつ簡潔で、同時にフィレンツェの芸術的歴史をも感じさせるような見せ方だった。  

 会場には、パネライ復活プロジェクトを立ち上げた、リシュモングループの最高経営会議のメンバーであるフランコ・コローニ氏も姿を見せた。コローニ氏はボナーティCEOと共に、やはり会場に現れたマリア・テレーザ・アベッティ・パネライさんに新製品の時計を手渡した。4代目の当主ジュゼッペ・パネライと結婚して以来、フィレンツェの店を夫と一緒に切り盛りして、もう90歳を越すマリア・テレーゼさんが感無量の表情を見せた。

■アンジェロ・ボナーティCEOインタビュー  

 パネライは19世紀半ばにスタートしたメーカーだが、海軍の秘密機器を納入していたため、その名は一般にはあまり知られてはいませんでした。パネライの歴史は、海軍の英雄たちの活躍とそのロマンとともにあった。そして製品の伝統にはフィレンツェの技術的創造性とも深くかかわっています。  

 私の役割は、このパネライの伝統を最高の技術と品質管理で現代によみがえらせ、そして未来を目指していくことだった。今回の新キャリバーには5年間の準備が必要だった。「他とは違うこと」を目標とし、なによりも正確性を重視しました。  

 我々はトレンディーなメーカーではなく、高性能な製品メーカーであろうと努力してきた。美しさという点でいえば、たとえばネクタイを付けていなくてもエレガントに見えるようなスタイルを目指してきた。今回のトゥールビヨンは、「ちょっと違うこと」を試みたわけだが、最高の品質という意味では避けては通れない一つのプロセスでした。  

 この10年間は、私の人生の中でも、今知りえた最も大切なことの大部分を得たくらいの濃い時間の連続だった。そして大いなる情熱を生かすために冷静な判断が必要だということも知った。大事なことは私一人の力ではなく、人とのつながりの中で実現されることも痛感しました。パネライの時計は、こういうつながりの中で生み出されてきたのです。  

 これからも未来に向かって、独自で高性能は製品を提供し続けていきたいと思っています。 (c)AFP BB News