【ロンドン/英国 7日 AFP】ロンドンの権威ある美術館に対して、評論家から批判が寄せられている。矛先はオーストラリア出身の歌手カイリー・ミノーグ(Kylie Minogue)、モデルのケイト・モス(Kate Moss)ら有名人をメインにした企画展である。


■ 「セレブリティ文化への降伏」?

 カイリーの「KYLIE: The Exhibition」と題された企画展は、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館(The Victoria and Albert Museum、V&A)で8日に開始され、ナショナル・ポートレート・ギャラリー(National Portrait Gallery)ではケイト・モスや米俳優ブラッド・ピット(Brad Pitt)、米女優アンジェリーナ・ジョリー(Angelina Jolie)、ロックシンガーのスティング(Sting)などのファッション写真を集めた「Face of Fashion」が15日に始まる。

 2つの展覧会は、今年ロンドンで開催される展覧会の中でも、最も来場者を引きつけるものになると思われる。一方で両館はともに国立の文化施設であることから、来場者数の増加を求める政府からの圧力により「俗物化」しているのではないかという議論を呼び起こしている。

 ロンドンのデザイン・ミュージアム(Design Museum)の設立に参加し、V&Aでも仕事をした経験がある評論家スティーヴン・ベイリー(Stephen Bayley)氏は、この2つの企画展について「セレブリティ文化への降伏」であると表現する。

 「良いものを人気のあるものにすることは出来ますが、それは人気のあるものが良いものであるということにはつながりません。この仕事には批判的な姿勢が必要なのです」

 V&Aは1857年、一般人の審美眼を向上させる目的で設立された。19世紀当時には傘を持ったカエルの装飾が施された作品を展示した学芸員が「間違った趣のものを展示した」として処罰されることもあった。

 最近乳がんから見事なカムバックを果たし、長年の恋人であった仏俳優オリヴィエ・マルティネス(Olivier Martinez)とは前週別れたばかりと、話題のカイリーの企画展とあって、前売り券は既に4000枚を記録している。

 V&AのVictoria Broackes氏はAFPの取材に対し、「この企画展はファッション、デザインとパフォーマンス芸術を取り上げており、それ自身が持つ価値に完全に基づいている」と答えている。

 「企画展自体は無料ですから、何千人もの人が足を運んでも、美術館は経済的な利益は受けません。しかし、観客の幅を広げるという利益を得ることができます」


■ 館の運営と「ロンドン五輪」

 しかし、現在英国の博物館が財政面で困難な状況にあることは事実である。博物館の運営資金は2012年のロンドン五輪を担当する部署と同じ部署から支出されている。

 政府関係者は五輪施設の建設費用を33億ポンド(約7800億円)としているが、評論家たちの中には、最終的な費用は80億ポンド(約1兆9000億円)に達することもありえるという見方もある。

 Broackes氏は博物館の財政について、非常に厳しいという事実は認めたが、この企画展がグッズ販売により利益を得るためのものであるという推測については否定した。

 五輪開催の余波とも言える資金的な「打撃」について同氏は、「確かにそういう話もあるようですが、博物館への資金は五輪開催が発表されるずっと以前から削減されてきたのです」と述べている。

 文化省の広報担当官は多くの来場者が訪れるように博物館が努力することは望ましいが、運営資金と来場者数に直接の関連性はないことを強調している。


■ 学芸員はファッション写真の「奥深さ」を強調

 一方、「Face to Fashion」を企画した学芸員スーザン・ブライト(Susan Bright)氏は「ナショナル・ポートレート・ギャラリーには、昔からファッション写真の伝統があった」と強調する。

 「この企画展には、ポートレートがどのように撮影されるのかを考えさせる十分な要素があります。そしてそれは、当館が最も抜きん出ている分野です」

 また、同氏は「ファッションの写真が全て同じに見えるわけではないということを、人々に気づいて欲しいのです。ファッション写真はとても奥深いものです」と述べている。

 写真は6日、企画展の開催を祝い、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館に駆けつけたカイリー・ミノーグ。(c)AFP/JOHN D MCHUGH