【4月14日 CNS】「まず自分が舞台に立たなければ、どんな物語も始まらない」

 これはインターネットセキュリティー企業「360」の創業者、周鴻禕(Zhou Hongyi)氏が自身の著書に記した言葉だ。人生の舞台で、彼は常に最前線に立ってきた。人工知能(AI)の波が押し寄せる中、「AI+セキュリティ」の二本柱戦略を掲げ、「360」を率いる一方、短編ドラマのブームにも飛び込み、自社AI製品のPRに活用している。

 周氏は中国新聞社(CNS)の「三里河」の取材に対し、「発展しないことこそ最大の不安定要因だ」と語り、「AIの機会をつかみ、生産性を高め、技術の恩恵をすべての人へ届けるべきだ」と訴えた。

■AIはあらゆる産業へ浸透中

 2024年の旧正月、国産大規模言語モデル「深度求索(DeepSeek)」が急速に台頭し、世界に中国の技術力を示した。周氏は「DeepSeekのようなモデルは、自主技術革新だけでなく、関連産業の連携を促進し、AIの産業応用を加速させた」と語る。

 周氏はAI大規模モデルを「新たな産業革命」と見ており、個人の業務効率向上や国家の競争力強化に資すると考えている。中国は産業の多様性で世界有数の位置にあり、伝統産業のデジタル化においても、大規模モデルは有効な手段だと強調する。

 また、AIの進化にはセキュリティ上の課題も伴うと指摘し、「既存のサイバーセキュリティでは対応できず、新たな『AIセキュリティ』が必要」と警鐘を鳴らす。エージェント、データ、クライアント、基盤モデルのすべてに安全対策が求められ、そのためには「モデルでモデルを制す」技術が必要だと語る。

 周氏は、業界全体が協力して大規模モデルの安全管理体制を整備し、安全を前提に技術の可能性を最大限に発揮するべきだと提言している。

■勝ちたいなら、まず舞台に立て

 2024年、周鴻禕氏が注力するのは「AIに全面投資」と「企業家IP(パーソナルブランド)づくり」だ。

 周氏は高級車マイバッハを売って国産車を推し、モーターショーでは車の上に登り、番組出演やAIドラマの撮影にも挑戦。SNSではフォロワー1000万人を超え、流行をつかむ達人となった。

「得到」創業者・羅振宇(Luo Zhenyu)氏は周氏を「話題を背負いながら、本業も止めない人」と評価する。周氏自身も「今の時代、ユーザーのいる場所に企業家がいるべきだ」と語り、ショート動画への挑戦は「必然」だと位置づける。

「企業家がIPになることは、市場の開拓であり、表現の場でもある。素の自分を見せることが魅力になる」とし、「自虐や自分の過去も武器にできるかどうかは、心構え次第だ」と述べた。

 周氏は「まず撃ってから狙いを定めろ」「実行力こそが人との差を決める」と信じており、2006年に「360」を創業して以来、今もAIやショート動画という新たな分野で成果を出し続けている。

「勝ちたいなら、まず舞台に上がれ」。著書にもこう記している。「いつまでも少年の心を持ち、自ら一歩踏み出して深さを確かめ、自分の人生を歩もう」。

■若者よ、起業を恐れるな

 周鴻禕氏はもともと「挑戦好きな性格」だ。起業の原点は、西安交通大学(Xi’an Jiaotong University)の学生時代。コンピューター室に通い詰め、2度の起業失敗も経験した。卒業後も試行錯誤を繰り返した。

 2024年、周氏は母校で兼任教授に就任。AIやデジタル技術に関する講義に加え、「起業クラス」の開設も予定している。

 最近では清華大学(Tsinghua University)で、「DeepSeekがもたらす起業のチャンス」をテーマに、学生や起業家ら約3000人に向けて講演を行った。

 周氏は「専門知識だけでなく、社会に価値を生み出す企業家精神が必要だ」と説き、「若者は一度は起業を経験すべきだ」と語る。「安定ばかりを求める社会では、活力が失われる。たとえ失敗しても、それ自体が人生の貴重な経験になる」と強調する。

 起業とは、必ずしも自ら会社を興すことではない。スタートアップに加わる、仲間とビジネスを始める、大学でスキルを磨くことも含まれる。「起業は広く捉えるべきだ」とし、起業に関わるすべてのプロセスが学びの場になると説く。

 未知への好奇心を持ち、試行錯誤の中で粘り強さを養うこと──それこそが、時代を前に進める力になると、周氏は自らの経験を通じて若者たちに語りかけている。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News