【三里河中国経済観察】中西部省、運河建設で地域経済に新たな原動力
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【4月9日 CNS】「川の力を侮ってはいけない」──この言葉が示すように、たとえば京杭大運河は中国の南北を結び、単なる水運ルートではなく、歴史と現代、南と北をつなぐ重要な結節点となっている。
今年の全国人民代表大会(全人代)では、湖南省(Hunan)代表団が団体名義で「湘桂運河を第15次5か年計画に組み入れることを求める提案」を提出した。実は2023年の全人代でも、湖南省代表団は湘桂運河の建設を加速させるよう提案していた。
湖南だけではない。現在、広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)では平陸運河の建設が本格化しており、水運が盛んな湖北省は荊漢運河の整備を推進中。安徽省(Anhui)では江淮運河がすでに開通しており、河南省(Henan)も内陸水運の強化に取り組んでいる。
こうした中西部の省が人工運河の建設に力を入れる背景には、主に以下のような理由がある。
まず第一に、地理的な制約と経済発展のニーズにより、内陸部の省は新たな海への出口と交通ルートを必要としていること。湖南や河南のような内陸省は、運河建設によって物流ボトルネックを解消し、経済の発展に向けた道筋を開けることができる。
たとえば、湘桂運河が完成すれば、長江(揚子江、Yangtze River)と珠江という中国を代表する2大水系が接続され、湖南・広西両省・自治区の計55の県市、約4000万人の住民に恩恵をもたらす。
第二に、運河建設は投資拡大の手段として有効である。現在、伝統的なインフラ開発──特に不動産分野の需要喚起効果が減少しているなか、「第15次5か年計画」に先駆けて運河整備を進めることは、建設、鉄鋼、機械といった産業への波及効果が期待される。さらに、港湾貿易の拡大も後押しされ、沿線都市は産業パークの建設などによって、資源のより効率的な移動が可能となる。
実例として、広西チワン族自治区南寧市(Nanning)は平陸運河の整備を追い風に、「港・産業・都市・海洋」の統合型発展を推進している。平陸運河沿いにある「東部新城」は広西で初めての海洋経済モデル地区のひとつで、2024年には比亜迪汽車(BYD)のエネルギー貯蔵、太陽紙業、プリント基板(PCB)産業パークなど、産業リーダーを中心に13件の新規プロジェクトが誘致され、総投資額は170億5900万元(約3兆3796億円)に上った。
第三に、運河は社会全体の物流コストを削減する有効な手段でもある。道路や鉄道に比べ、水運はエネルギー消費が少なく、環境への負荷も低い。安徽省交通運輸庁の試算では、江淮運河の開通により、内陸部の大口貨物輸送にかかるコストを年間60億元(約1188億6660万円)節約でき、年間180万トンの二酸化炭素排出削減が可能となり、沿線の工業企業の物流コストも5〜10%減少すると見られている。
また、平陸運河が完成すれば、中国西南部からの貨物が広州港経由よりも内陸水運ルートを560キロ以上短縮できる見込みだ。
さらに、中西部が運河を通じて海へのアクセスを獲得すれば、中国国内外の経済地図における地位も高まるだろう。たとえば現在、調査段階にある「浙江・江西・広東運河」は、浙江省(Zhejiang)から出発し、江西省(Jiangxi)を経て広東省(Guangdong)に至るルートで、沿線の江西省にとっては海への新たな出入口となり、珠江デルタや長江デルタとの経済的つながりを一層強化し、江西の資源が全国の供給体制に組み込まれるきっかけにもなる。
長期的に見れば、中西部における運河投資はさらに大きな潜在力を発揮し、地域経済の均衡ある発展に新たな推進力をもたらすだろう。
ただし、新たな運河の建設には莫大なコストがかかるため、収益性を考慮したうえでの綿密な事業評価が必要である。交通地理学の専門家で香港大学(University of Hong Kong)地理学部の元主任・王緝憲(Wang Jixian)氏は、「すでに陸路輸送能力が十分に整っている省においては、運河が他の分野に利益をもたらすのは難しく、主にインフラ関連産業を活性化する効果しか見込めない」と指摘している。
ゆえに、科学的な計画と管理のもとでこそ、内陸部の水資源を有効活用し、沿線地域に経済的・社会的・環境的なメリットをもたらす運河整備が実現できるといえる。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News