【4月8日 Peopleʼs Daily】張玉立(Zhang Yuli)さんは午前6時過ぎに家を出て、60キロ離れた河北省(Hebei)邢台市(Xingtai)の西部山間部に向かって車を走らせた。

「バイオリンを持って!」午前8時、バイオリンの美しい音色が山間の静けさを破った。 山を背に川に面した広場で、張さんは10人余りの子供たちに繰り返し音程を唱えながらバイオリンを指導している。

 今年70歳の張さんは、退職前はオーケストラのバイオリニストだった。彼は2013年から山間部の子どもたちに、無償でバイオリンを教えている。「山に音楽をもたらし、バイオリンの音色を山々に響かせることは、私が今までやってきたことの中で最も意義深いことだ」、彼はこう話している。

「山に音楽を」は偶然から始まった。12年の秋、張さんはオーケストラの友人たちと、邢台市冀家村郷(JIjiacunxiang)の雲夢山(Yunmengshan)に山登りに出かけた。秋の山の景色は美しく、感動した仲間たちが即興で演奏を始めた。すると、バイオリンの心地よい音色に魅かれ、地元の子どもたちがたくさん集まってきた。

 子どもたちは「これはどんな楽器? とてもいい音!」とたずねた。張さんはその時の子供たちの好奇心に満ちた表情を忘れない。山から戻った翌日、彼は必要な証明書を持って所管の部門を訪ね、山間部の音楽教育について調べ、「山へ行って音楽を教えたい」と志願した。そして太行山脈(Taihang Mountains)の奥深い所にある「冀家村小学校」が、彼の音楽教育の「初めての勤務先」となった。

「バイオリンの4本の弦を弾くと、その澄んだ音色に、子どもたちは目を大きく見開いて、『わあー』と何度も声を上げた」、張さんは最初の授業の時の光景を非常に鮮明に覚えている。子どもたちは争ってバイオリンに触ろうとした。その瞬間に張さんは「バイオリンの音色を山に届けよう」と決心した。

 授業が徐々に軌道に乗ると、張さんはさらに同じように辺境にある四つの村でも教えるようになった。山道は険しいが、彼は疲れも知らず喜んで山間部を往復している。

「山々にバイオリンの音色を届けることは、子供たちの生活を豊かにするだけでなく、彼らが山から出てくる手助けにもなる」と話す。彼はバイオリンの指導を続ける中で、バイオリンに興味があり才能もある子供たちを意識的に選び、放課後に特別練習を行うバイオリン教室を開設した。

 13年3月には最初の生徒24人が集まった。指導にあたっては、子どもたちのレベルにばらつきがあったため、彼はマンツーマンで根気よく指導を行った。

 最年長の生徒・張明錕(Zhang Mingkun)さんは弓を持つのが遅かったので、弓の使い方が柔軟性に欠けるというやっかいな問題があったが、張さんの根気強い指導でこれを克服した。そして彼は、その後めでたく「寧夏大学(Ningxia University)音楽学院」への進学し、バイオリンでとうとう山を越えることになった。

 最年少の女子生徒・張明玉(Zhang Mingyu)さんは、24年に幼児教育の専門学校に合格した。「より多くの子供たちにバイオリンを愛してもらう」ことが、彼女の今後の学習と仕事の目標となっている。

「山間部に音楽教育を」という活動を始めてから12年間、張さんは11回にわたって合計400人余りの「バイオリンの生徒」を募集してきた。そのうち20人以上の生徒がバイオリンのアマチュア演奏者の最高資格である「10級証書」を取得し、多くの生徒が全国レベルや省レベルのコンクールで賞を獲得している。

 張さんは16年から率先して関連部門に働きかけ、生徒たちによる芸術団を村々に派遣しての文化公演を実現した。この公演を通して子どもたちは自信を深め、芸術団の知名度も高まった。彼は「以前はあちこちで演奏の舞台を探したが、今では舞台の方から直接迎えに来てくれるようになった」と話す。今では芸術団も山から出て、省や市の活動に参加する機会が増えた。今後さらに広い舞台で公演を行う機会がありそうだという。
 
 張さんは年齢を重ね、23年の後半から医師の勧めで山と町を行き来する回数を減らすようになった。そして子どもたちが練習不足にならないよう、自費で自宅近くに小さな家を借り、子どもたちが練習やレッスンができるような教室に改装した。

「以前は張先生が山に登って教えてくれたが、今度は私たちが町に降りて学ぶ番だ」、親たちの支援を受け、バイオリン教室の子どもたちは週末に集まりバスに乗ってその小さな家に行き、練習やレッスンを受けるようになっている。

「子どもたちと約束した。彼らが学びたいと思う限り、私は教え続ける」、張さんはこれからもバイオリンを教え続けるつもりだ。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews