無形文化遺産の中に見つけた探し求めていた答え
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【4月5日 Peopleʼs Daily】著名なショート動画制作者・李子漆(Li Ziqi)の手記:
2022年の春節が間近に迫る頃、緑豆粉製の麺「凉粉(Liangfen)」を売る張(Zhang)おばさんは、屋台にもたれかかり、片手をポケットに突っ込み、もう片方の手で素早くスマホを操作して、自身のソーシャルメディアのホームページを見せてくれた。
そこには、彼女が暇を見つけてスマホで撮影した凉粉作りの動画が、数多くアップロードされていた。「動画を見たネットユーザーがわざわざ遠くから店に来てくれるようになった」と彼女が教えてくれた時、私は長い間軽視してきた事実を再認識した。インターネットの急速な発展、ショート動画の撮影と配信の広がり、そして誰もがメディアパーソナリティなのだという事実だ。
過去数千年間、才能あふれる文人墨客たちは、自身の才能や学識や喜怒哀楽が数千万もの人たちに、ほんの数秒間で伝わるという未来の世界が存在するとは、夢にも思わなかったことだろう。たとえ張おばさんの知恵と工夫が、一椀の涼粉に過ぎなくとも、それが瞬く間に多くの人々に伝わるのだ。
私はショート動画を長年創作してきたが、伝統文化のために、時代の変化に合わせて、もっと多くのことをなすべきだと感じ始めた。張おばさんのQRコードをスキャンして涼粉2椀の代金を支払った時、私は大胆な決断をした。当面は動画を更新せず、無形文化遺産の継承者のもとへ答えを見つけに行くことにしたのだ。
23年の年初から、四川省(Sichuan)を手始めに20以上の省を訪問し、100名を超す無形文化遺産の継承者や文化関係者と面会した。そして彼らとの長時間の交流を通して、私は探し求めていた答えを見つけた。
文化遺産の継承者たちの仕事の現場を長い時間をかけて訪問し、彼らと深く交流する中で私が得た答えは「彼らにとって伝統文化は『仰々しい』レッテルではなく、伝統文化の普及は『声高な』スローガンではなく、彼らにとってそれはまさに生活に根差した、毎日の営みそのものだ」ということだった。
継承者の世代交代という深刻な問題をどのように解決すればよいのだろうか? 継承者がインターネットからは遠い距離にあり、伝統文化の普及にインターネットを十分に活用できていない現実的問題をどのように解決すればよいか? 継承者の技術を活かして若者の審美眼にもっと適合した新製品を開発するには、彼らをどう啓発すればよいのか? 継承者の知的財産権の保護の問題をどう解決すればよいか?
このような問題が分かったからには、これらを解決しなければならない。昨年、私は伝統文化の保護を目的とした非営利の小規模なプラットフォーム「李子漆・無形文化遺産ワーク・ステーション」を設立した。私が過去2年間直面したこれらの問題は、多くの「同業の仲間」のサポートと協力で、一つひとつ解決され、何件もの成果が得られた。
伝統文化がより多くの人びとに注目され評価されるようになった今、この文章を書いていることを嬉しく思う。
伝統文化を愛し、インターネット技術にも明るい若者たちが、より多く参加してくれることを願っている。若者には大きな可能性があると思う。
紙が発明される前は、文字は亀の甲羅や動物の骨に刻まれていた。また、北宋の発明家・畢昇(Bi Sheng)が活版印刷を発明する前は、木彫印刷が主流だった。それぞれの技術の起源は、その時代の歴史や文化に由来している。我々が生きる現代は、通信伝達環境が簡便迅速になり、先端的な科学技術が利用できる時代だ。伝統技術の普及やイノベーションがこのような正しいインフラの下でさらに促進されることは間違えない。
おそらく数十年、あるいは数百年後には、私たちが今日行っている時代的背景をもとにした伝統文化のイノベーションは、畢昇の活版印刷の発明や黄道婆(Huang daopo)の綿紡績の技術革新のように、この伝統文化・工芸の進化の長い歴史の中で、永遠に記録に残ることだろう。
筆者は中国のオンライン・ショート動画の制作者、李子漆氏。原文は人民日報に掲載された。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews