【3月21日 Peopleʼs Daily】膝を曲げ、しゃがみ込み、トレーから6キログラムの資材箱を慎重に胸の高さまで持ち上げ、後ろに下がり、向きを変え、左後ろの無人物流トレーラーに向かって小刻みに歩き、正確に位置を合わせ、頭を下げ、膝を曲げ、腰を落とし、資材箱をトレーラーに置き、向きを変えてトレーに戻り、また作業を続ける...。

 中国EV大手「比亜迪汽車(BYD)」の長沙市(Changsha)の「星沙(Xingsha)産業基地園区」の物流倉庫に入ると、ちょうど2体の身長172センチメートルの人型ロボット「ワーカーS1」が順番に模擬運搬作業を行っていた。

 人型ロボットを開発した「優必選科技(UBTECH)の焦継超(Jiao Jichao)副総裁の話によると、1体の人型ロボットによる運搬作業全てのシナリオの実行、無人物流車両との共同作業の実現、そして2体のロボットによるコラボ作業まで、昨年10月下旬の現場トレーニング開始以来、作業効率は2倍に向上したという。

 UBTECHの人型ロボットが自動車工場に登場するのは今回が初めてではない。以前「吉利汽車(Geely Automobile)」のブランド「極氪(ZEEKR)」の5Gスマート工場で、40万台目の車両が完成した現場で、「ワーカーS1」が「実習品質検査員」として、車両のエンブレムやライトのミリ単位の精度の品質検査を成功させていた。今年年初には「ワーカーS1」は他の3つの製造企業でも訓練を受けていた。

「国家地方共建人型ロボットイノベーションセンター」のチーフサイエンティスト・江磊(Jiang Lei)氏は、この業界の急速な盛り上がりを「2022年の世界ロボット大会では人型ロボットはわずか3台、23年大会では10台、24年大会では27台に増えた。24年11月18日現在、人型ロボット分野では49回の資金調達ラウンドが行われ、単体での最大調達額は10億元(約205億5000万円)近くに達し、総調達額は80億元(約1644億円)を超えている。中国の人型ロボット企業は24年初めの31社から80社に増え、世界全体では200社以上になっている」と説明する。

 知能が物理的な身体(具身)を通じて環境との相互作用により能力を発揮する「具身知能(Embodied Intelligence)」もまた人型ロボットと同じくらい注目されている。最近は自動運転の研究開発に従事するエンジニアが「具身知能」の領域に踏み込んでおり、この分野への投資と起業熱は新たな高みに達している。それでは、「具身知能」とはいったい何だろうか?人工知能とどんな関係があるのか?

 これに対し焦副総裁は「具身知能とは、平易に言えば、人工知能とロボットなどの物理的実体とが融合され、人間と同じように知覚し、学習し、環境との動的な相互作用を行う能力を与えることを指す」と解説する。この考え方は早くも1950年には提唱されていた。身体と環境の相互作用によって知能的な行動を生み出すことに重点を置いている。国家人工知能発展戦略の中で「具身知能」は、人工知能をデジタルの世界に閉じ込めることなく、物理的世界と相互作用させる唯一の方法であり、現実の世界に多大な影響を与えることになる。

 人型ロボットは、「具身知能」の物理的形態の一つである。中国工程院の孫凝暉(Sun Ninghui)院士によれば、「具身知能」とは、ロボットや無人車両など物理世界との相互作用を行う身体を持つ「知能体」を指すという。それらは、大型のマルチモーダルモデルを通じて入力される複数の種類のセンサーデータを処理し、大型モデルが「知能体」を駆動するための動作指示を生成し、従来の動作ルールや数学的公式に基づく駆動方法を置き換え、仮想と現実の深い融合を実現するものだ。

 また江磊氏は記者に対し「人型ロボットの開発には2つの方向がある。その1つはホンダ(Honda)が開発した人型ロボット『ASIMO(アシモ)』で、ロボットを単なるハードウェアプラットフォームとして、その機械工学や運動能力に重点を置く道だ。ただしこの研究開発はすでに18年に停止されている。もう1つは米EV大手『テスラ(Tesla)』の方向で、人型ロボット開発と『具身知能』の結合を目指し、AI計算センター、データセンター、クラウドサービスプラットフォームなどのAIインフラストラクチャーのサポートを強調する方向で、「新世代の人型ロボットは、ロボット、具身知能、AIインフラストラクチャーの結合だ」という考え方だ。

 テスラの計画によると、今年、人型ロボット「オプティマス・プライム(Optimus Prime)」の小規模な量産を実現させ、来年には本格的量産を実現させるという。

 また、中国のロボット企業も、今年を人型ロボットの「量産元年」と位置づけている。

 昨年12月26日、楽聚(深セン)机器人技術(LEJU ROBOT)の「楽聚ロボット」第1生産ラインが正式に稼働し、年間200台の人型ロボットの生産が見込まれている。

 UBTECHも、人型ロボット「ワーカー」シリーズの納品を増やす計画だ。

 楽聚(深セン)机器人技術の冷暁琨(Leng Xiaokun)会長は、同社の人型ロボット「夸父(Kuafu)」はすでに現場での応用が検討され、最終的には家庭サービスへの応用を目指していると述べている。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews