【5⽉10⽇ Peopleʼs Daily】使い捨てライターは小さな商品だが、その市場は全世界に広がる。世界で使われている使い捨てライターの中では、中国製が圧倒的に多い。そして、2022年に湖南省(Hunan)邵東市(Shaodong)から輸出されたライターは35億2000万個で、同時期の中国全国からの輸出量の約半分を占めた。使い捨てライターは中国国内ならば、1個の小売価格がたかだか1元(約19円)程度なので、「一元ライター」などと呼ばれている。人件費や材料コストが年々高くなっている中で、邵東市はなぜ、一元ライターの価格優位性を20年間も保つことができたのだろうか。その答えは「イノベーション」だ。

 科学技術の革新により、効率を高めると同時にコストを削減することもできる。一元ライターには、火炎調整リングやその他の火炎制御装置、ガス容器バルブ、点火強度調整器など、30点以上の部品が使われる。安価ではあるが、投入される「技術の密度」は濃い。2009年にはライター輸出企業6社と関連企業5社が提携して、ライターの研究開発、射出成型、検査、販売などを一括して行うグループを作った。邵東市は2018年、ライター製造のトップ企業10社以上が自動化改造をほぼ完了したことなどで、国家対外貿易モデルチェンジ・アップグレード拠点に認可された。かつては作業員がピンセットをつまんだり、ペンチを握ったりしながら昼夜3交代で働いていたが、今では12の工程すべてが自動化され、ライター1個当たりの人件費はそれまでの0.1元(約2円)から0.015元(約0.3円)にまで下がった。薄利しか得られない産業における極限近くまでのコスト削減は、中国の製造業の収益力や発展の潜在力を反映している。

 デザインの革新も、世界市場における中国製一元ライターの強みをさらに堅牢にした。実際に販売する過程では、地域によって消費者が好む色が違う。邵東のメーカーはライターの外側に色鮮やかなスプレーを施している。消費者がシンプルな外観を好む地域であれば、業者は外観の派手さを最小限に抑えた。また若者は多機能を好むので、懐中電灯兼用のライターを登場させた。これも地道な工夫だった。市場のニーズを的確に反映させることで、一見普通のライターが、ファッションイノベーションの最先端を走るようになった。小さな商品に大きなアイデアやソフトパワーが込められ、中国の製造業にとっての広い販路を開拓している。

 このような事例はライターだけでない。常住人口がわずか3万人余りの江蘇省(Jiangsu)揚州市(Yangzhou)杭集鎮(Hangji)での歯ブラシの年間生産量は中国国内の60%、世界の40%を占める75億本だ。生分解性歯ブラシや環境にさらに優しい製品を次々に登場させたことで、杭集鎮産の歯ブラシが高級ホテルに進出する扉が開かれた。中国の極地科学調査船の「雪竜」にも杭集鎮で生産された歯ブラシが積み込まれた。浙江省(Zhejiang)永嘉県(Yongjia)では年間約500億個のボタンが生産されている。近年は薬剤ボタンや発光ボタンなどのアイデア製品が次々と生まれ、消費の流れをけん引するようになった。雑貨に属する商品でも研究開発や製造での工夫を凝らせば、価値を高めることができる。イノベーションはメード・イン・チャイナの名刺の価値を高め、より多くの製品の海外進出と世界への浸透を推進していく。

 高速鉄道やシールドマシン、スパコンなどの大国ならではの大型産品と同様に、歯ブラシ、ボタン、ライターも革新的な要素が込められた素晴らしい中国製品だ。産業規模は大きくないかもしれないが、製造業の「種目別チャンピオン」になっている地元密着型の商品は多い。それらの商品は中核的技術分野における「難関攻略者」であり、産業チェーンの安泰の「擁護者」であり、経済の質の高い発展の「堅牢なバックボーン」であり、中国の製造業の中核部分をなす重要な構成要素だ。雑貨関連の産業の質の高い発展への歩みは深い啓示をもたらした。すなわち、革新や研究開発を通じて業界の最先端を歩み続けることを堅持すれば、激しい市場競争の中で足場を固め、時代の潮流に果敢に立ち向かうことができるということだ。(c)Peopleʼs Daily /AFPBB News