【10月27日 東方新報】中国・山東省(Shandong)出身の全盲ランナー、厳偉(Yan Wei)さんは18日、上海市・大寧公園で100キロマラソンに挑戦し、9時間40分で完走した。盲人としては最初の100キロマラソンランナーとなった。盲人ランナー伴走ボランティアを行っていた支援団体「黒暗跑団」のボランティア伴走者たちともに達成した栄光だった。完走できたのは午後6時22分。厳偉さんの運動ソフト計数データは100.9キロを記録した。

 厳偉さんはマラソン界では知る人ぞ知る盲人ランナー。2015年の北京国際マラソン大会(Beijing International Marathon)でデビューし、その2年後の2017年には120年以上の歴史があるボストン・マラソン(Boston Marathon)で、4時間26分で中国初の盲人ランナーとして完走した。このボストン・マラソン参加は渡米ビザを3度も拒否されるなど、レースのスタートラインにつくまでも長いドラマがあり、あわや参加できなくなる可能性もあった。コンディションの整わなかったこともあり、その5か月前の杭州マラソンで出した当時の自己最高記録3時間22分にはるかに及ばなかったが、それでもこの快挙は中国全土で喝采を浴びた。

 32歳の厳偉さんは生まれつきの全盲。だが少年時代から走るのが大好きで、小学校1、2年のころから走っていたという。クラスメートと手をつないで2、3キロ走ることもあったが、その後、安全上の理由や一緒に走ってくれる友人がいなくなったことから、いったんはランニングの趣味から遠ざかったところ、風邪をひきやすくなったり、体重が増えたりするなどの健康面に問題が起き始めた。

 寄宿生の盲人中学校を卒業後、鍼灸(しんきゅう)専門学校にいき鍼灸師として北京市や杭州市(Hangzhou)で数年働いたあと、故郷に戻って開業したのをきっかけに、趣味のランニングを再開。2015年5月にネットで全盲でも北京マラソンにエントリーできることを知り、4か月弱のトレーニングを経て参加した。その後、数々の大会を経験し、ワールドマラソンメジャーズ(WMM)の中でも抜きんでて平均完走タイムの高いボストン・マラソンに参加するほどの実力を備えた。今も常にトレーニングを怠らず、毎月500~600キロは走りこんでいるという。

 盲人マラソンには、短いロープで腕をつなげて走る伴走者が必要だ。同じ速さ、リズムで走りながら、ランナーの走行を妨害せずにコースを誘導したり補給飲料を渡したりするためだが、実はこれは、かなり相性や技術のいる仕事だ。いつも巌偉さんの伴走を務めている公雲峰(Gong Yunfeng)さんと盧為(Lu Wei)さんも、今回50キロ以上走ったが、最後の段階で、二人は初めて他のボランティア伴走者の助けをかりることに。リレー式に伴走を引き継いだボランティア伴走者は、走り始めしばらくリズムが合わなかったが、最後には100キロまで伴走しきった。

 厳偉さんは完走後、この初めての得難い経験について「100キロマラソンはランナーにとってのマイルストーンです」とコメント。伴走者で盲人マラソン支援団体「黒暗跑団」メンバーの盧為さんは「巌偉さんは私に多くのことを教えてくれました。楽観すること、継続すること。彼と付き合って、私は彼が盲人だと思わなくなりました」と語る。盧為さんは2015年の北京マラソン大会で、偶然、巌偉さんと出会い、意気投合し、すでに10回、巌偉さんの伴走を行ってきた。

 黒暗跑団の創始メンバーの一人、程益(Cheng Yi)さんによれば、厳偉さんは中国で十数人の盲人ランナーの一人で、今回、三人の伴走者とともに走ったという。そのうち二名は長年の巌偉さんの伴走ボランティアで、公雲峰さんは湖南省(Hunan)長沙市(Changsha)から、そして盧為さんは重慶市(Chongqing)から巌偉さんのために駆け付けてくれた。二人はコースガイドと、補給サポートをそれぞれ担当。また、途中100メートルごとに、ボランティアステーションが設置し、医療ボランティアがいつでも支援できる準備を整えての挑戦だった。

「ボランティア伴走者は、途中で交代、休憩してもいいのだが、私は走り続ければならず、途中でエネルギー補給が必要な時は、走りながらチョコレートなどを食べるんだ」と巌偉さんは説明する。70キロの時点で、伴走者の公雲峰さんは足を少しいため、いったん休息に入った。公雲峰さんにとっても、100キロマラソンの挑戦は初めてだったのだ。ここのレース前に、公雲峰さんは巌偉さんと、黒暗跑団サイドともよく相談して、一緒に100キロマラソンを走ると決心していたという。公雲峰さんは短い休息をはさんで、また伴走を継続した。

 黒暗跑団のもう一人の創始メンバーの蔡史印(Cai Shiyin)さんは「厳偉さんが100キロマラソンを完走するのはわかっていましたが、こんなに順調だとは思いませんでした」と語り、厳偉さんの気力に感心したようだった。「大寧公園には観光客も多く、ランナーは平時の直線コースよりも走りづらかったでしょう。トータル15人のボランティアランナーが一緒に彼を完走させたことになります」とチームワークをたたえた。

 蔡史印さんによれば、厳偉さんはマラソンを始めた当時は、伴走者とリズムがうまく合わず、苦労もあったようだ。だが黒暗跑団と出会ったことで、厳偉さんの記録はどんどんよくなっていった。「私は厳偉さんから本当に多くの励ましをもらいました。毎回、トレーニング走を終えた後、私たちはコーチと一緒に反省会をしました。視力の制限があるなか、常人よりさらに多くのトレーニングをしてきた巌偉さんに、私たちは学ぶところがたくさんありました」と話す。

 黒暗跑団は2016年4月、マラソン大会に参加する盲人ランナーをサポートするために設立された。当時、マラソン大会に盲人ランナーの参加が続々と認められるようにルール改正がされていったころだった。黒暗跑団はすでに30都市に500拠点を持つほど拡大し、のべ5000人以上の障害者ランナーのサポートを行ってきた。全体の参加者はボランティアもふくめて2万人を超える。

 巌偉さんと黒暗跑団の快挙は今後も一、障害者ランナーの目標となり、障害者スポーツのすそ野を一層広げていくことになるだろう。(c)東方新報/AFPBB News