【10月13日 AFP】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-un)朝鮮労働党委員長といえば、ミサイル発射実験で見せる笑顔や、長時間に及ぶ党の会合で指揮を執る様子といったイメージが強いが、先週末行われた軍事パレードではいつもとは違う一面が示された。あの金氏が感情の高ぶりをあらわにし、申し訳ないという表情を見せたのだ。

 このパレードで、自国が擁する最新かつ最大の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を誇示した金委員長は演説を行い、国民の献身に「感涙せずにはいられない」と語ると、その声はにわかに震えた。

 金氏は、自国では新型コロナウイルスの感染者は一人も出ていないと主張している。国民と軍に対し、その忠誠に加え、同ウイルスの大流行のさなかにあっても健康を維持してくれていることについて、大仰な謝意を繰り返した。

 この演説を捉えた映像の中で同氏は、災害復旧作業に参加したボランティアらを褒めたたえた後、涙をぬぐったかのようにハンカチを演台に置き、眼鏡をかけ直していた。

 さらに、国民の期待を裏切ったと謝罪する一幕もあった。

 国営朝鮮中央通信(KCNA)による演説の書き起こしによると、同氏は国民に対し、「空のように高く、海のように深く、皆は私に信頼を寄せてくれた。しかしいつも満足に応えられず、本当に申し訳なく思っている」と述べている。

 ただ金氏の真意をめぐり、アナリストらの意見は分かれている。北朝鮮に関する調査分析企業「コリア・リスク・グループ(Korea Risk Group)」のアンドレイ・ランコフ(Andrei Lankov)氏は「まず第一に彼(金氏)は政治家であり、政治家であるということは優秀な役者であるということだ」と述べた。

 とはいえランコフ氏は、金氏は「本心から国民に良い生活を送ってほしいと思っている」「ミサイルは最優先だが、彼は農民のことも忘れていない」と補足している。

 米中央情報局(CIA)の元北朝鮮アナリスト、スー・キム(Soo Kim)氏は、金氏は「基本的な公約を果たせなかったことの埋め合わせで、涙に訴えた」可能性があると指摘した。

 一方、韓国英字紙のコリア・ジュンアン・デイリー(Korea JoongAng Daily)は、「うそ泣き」のパフォーマンスだと一蹴している。

 映像は国営朝鮮中央テレビ(KCTV)で10日に放送された内容の一部。(c)AFP/Sebastien BERGER