【記者コラム】山火事の中心部へ 米カリフォルニア州
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【9月29日 AFP】米カリフォルニア州オロビル(Oroville)湖のそばで、橋を眺めていた。夜空がオレンジ色に染まり、遠くの木々のこずえを照らしている。丘の中腹に炎が点在し、湖面に反射している。写真を1枚撮った。ビッドウェル・バー(Bidwell Bar)橋を渡る道路は、山火事のど真ん中へと、まっすぐ突き進んでいるように見える。
私が情熱を注いでいるのは自然災害の取材だ。火災や竜巻、火山など。この地球上で起きている光景を伝えられることが気に入っている。カリフォルニアで10年間、山火事を取材してきた。だが、今年のようなものは見たことがない。山火事の季節が来るたびに新たな事態に驚かされる、というのが今の「ニューノーマル(新常態)」らしい。

ここでは最悪の熱波が起きたばかりだ。カリフォルニア州サンフランシスコ近辺の私が住む街の気温は43度に達した。ロサンゼルスでは47.2度。サンフランシスコでは36.6度の気温が一晩中続いた。そこに強風が吹き始めた。周辺の土地は極端に乾燥している。そうして、この地ではまれな嵐が起き、サンフランシスコ湾岸地域に観測史上最大級の雷を伴う暴風をもたらした。落雷は約2500回。なのに雨は降らない。乾いた稲妻と呼ばれる現象で、カリフォルニア北部の異常気象だ。湾岸地域で雷が落ちるのは年に1回程度で、2、3年ごとにせいぜい2、3回。それが突然、至る所で雷による火事が起きた。


だが、最悪な事態は9月になって訪れた。私は今、この文章を休息も取らずに36時間ぶっ続けのシフトを終えてから書いている。最初にシエラ国立公園(Sierra National Park)の山火事「クリーク・ファイア(Creek Fire)」を取材し、次に車で北へ5時間半のベリークリーク(Berry Creek)地区一帯に広がっている山火事「ベア・ファイア(Bear Fire)」の取材に行って来た。一晩中、写真を撮り続け、翌日もずっと撮影し続けた。他にも撮るべきものはたくさんあったが、その時点であまりに疲れ果て、賢明な判断ができる自信がなくなったため、撤退するしかなかった。その間、同僚らもまた、さらに北のオレゴン州やワシントン州で、アクセスがさらに困難な中、多くの火災を懸命に取材し続けていた。

クリーク・ファイアは、私たちの誰も見たことがないような山火事だった。発生場所は、サンフランシスコ南方のシエラネバダ(Sierra Nevada)山中。通常なら、釣りや水上スキーができる所だ。複数の国立公園を抱える広大な区域で、古代の森林に覆われ、数々の滝や花こう岩の崖がある。巨大なセコイアの木もある。中には樹齢数千年、高さ数十メートル以上の木もある。
山火事の取材に行った日、火災は午後5時までに約20平方キロに及んだ。午後6時には約145平方キロメートルに広がった。私たちは自問した。こんなことがあり得るのか。そして午後11時30分までには約400平方キロ以上に火は広がり、何かの間違いではないかと思ったぐらいだ。前代未聞の速度で火が拡大していることになる。
分かってきたのは、この地域には高さ数十メートルを超える巨大な枯れ木が密集していることだった。数十メートルともなると、炎は木の高さの少なくとも2倍に到達する可能性がある。山火事などによって立ち上る火災積乱雲は約1万5000メートルにも達し、この高さは米国の平原地帯で竜巻を発生させる「スーパーセル(巨大な積乱雲)」と同じだ。
今回、それと同じことが起きた。その結果、稲妻が発生し、さらに火災と複数の「火災竜巻」が起き、火の粉が拡散されて多数の飛び火が起きた。まるで原爆が爆発したかのようだった。

私が見た炎は、高さ数十メートルに及んでいた。炎の壁のようだ。ぞっとする光景だった。この地域に消防士がほとんどいなかったせいで、なおさら怖かった。各地であまりにもたくさんの火災が発生しているため、消防士は広範囲に分散し、手薄だった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあった。

オロビル湖北部のベリークリーク地区では、ベア・ファイアと呼ばれる山火事が発生した。そこでは、高さ40メートルの木の天辺から炎が別の木に飛び移るのを目にした。
かつては美しい田舎の村だったベリークリークは、今や完全に破壊されていた。いくつかの学校、商店、消防署、数百戸の家屋含めてだ。

火災の取材に出かける前に、妻は想定内のリスクだけを取るよう私に約束させる。現場に入る前には、退路を確認しなければならない。炎を見たら、身の安全のために避難できる空間をしっかり念頭に置いてから、写真を撮りに行く。
大火災を見たら、脇目も振らずに写真を撮りに行きたくなるが、火の回りは非常に速く、簡単に巻き込まれてしまう。火の広がりは、こちらが逃げるよりも速い。危険は高まるばかりだが、それだけ魅了もされる。

私は山火事の力を前に、立ちすくみ、魅了され、夢中になり、また謙虚になる。そして防火線の内側で何が起きているのかを知ってもらえるよう、現場の話を伝え続けることに強く突き動かされている。
数十万人の人々が家を追われた。焼失した土地は数百万ヘクタールとも言われる。ニュージャージー州の面積に匹敵する規模だ。それなのに、火災シーズンはまだピークにも達していない。


山火事がどんな展開をたどるかについて、自分はよく知っていると誰もが思っているだろう。少なくともカリフォルニアでは。だが翌年の山火事では、「こんなの、今まで見たことがない」という事態が起きる。消防士は毎回、「未曾有の規模だ」と言う。今や、この表現がニューノーマルとなったようだ。

私の写真の一部が拡散されたようだ。米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)が掲載し、ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)米元国務長官も使用していた。ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領までもが、私の写真をシェアした。私はどうやってこの機会を活用しようかと考え、妻と話し合った。写真のプリントを販売し、売り上げの全額を山火事の被害者と消防隊員基金に寄付することもできるかもしれない。

私は、一般ニュースのこうした取材に情熱を傾けている。一方で、私の写真によって少しでも有益な変化をもたらす方法を見つけ出せれば、自分が現場にいる目的は果たされたように思える。

このコラムは、サンフランシスコを拠点とするフリーカメラマンのジョシュ・エデルソン(Josh Edelson)が執筆したものを、仏パリのローランド・ロイド・パリー(Roland Lloyd Parry)およびミカエラ・キャンセラ・キーファー(Michaela Cancela-Kieffer)が編集し、2020年9月18日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。