【7月19日 AFP】南極の氷床から流出した融解水を人工降雪機で氷河に戻せば、壊滅的な海面上昇は阻止できる──独ポツダム気候影響研究所(PIK)の科学者たちが17日、こんな奇策を発表した。

 西南極(West Antarctica)の巨大な氷床が全て融解すれば、海面は地球全体で6メートル上昇することになる。1メートルの海面上昇で約1億9000万人が移住を余儀なくされ、3メートル上昇するとニューヨークや東京、上海など世界の巨大都市が水没の危機にさらされる。

 特に、西南極のパインアイランド氷河(Pine Island Glacier)とスウェイツ氷河(Thwaites Glacier)については既に、温室効果ガスの排出量を削減しようがしまいが、融解が進んで取り返しのつかない状態になる「転換点」に到達したのではないかとの懸念が科学者の間で高まっている。

 地球工学に基づいた解決策としてPIKが発表した計画は、西南極の氷河から海に流出した融解水を吸い上げ、人工降雪機を利用して氷河の頂上部に雪として降らせることで、氷河の消失を阻止しようというものだ。PIKの研究チームはシミュレーションを用い、年間降雪量を人工的に急増させれば氷河を守れるとの結論を導き出した。

 ただし、2つの氷河を維持するためには少なくとも年間7兆4000億トンの降雪量が必要となる。これはジャンボジェット15万機分の質量に相当する。

 また、計画の運用に当たっては、何百台もの人工降雪機を使って中米コスタリカの国土面積ほどの広域に雪を降らせなければならず、その電力を賄うのに風力タービン1万2000基も必要になるという。

 研究を率いたPIKの物理学者アンダース・リーバーマン(Anders Levermann)氏は、あくまで仮説段階だと強調し、成功させるには思い切った排出削減を断行しなければならないと指摘。計画実現にかかる費用の試算はしていないものの、実行すれば西南極は工業地帯化し、南極には「恐ろしい」影響が出るだろうとの見通しを示した。その上で、海面上昇を抑制できるなら「価値のある代償」だと主張した。

 地球工学に基づいた西南極の融解阻止策としては、これまでに、エッフェル塔(Eiffel Tower)と同程度の高さの支柱を海底に建設して棚氷を下支えする案や、高さ100メートル・長さ100キロメートルの海中壁を建てて深海から湧き上がってくる温かい海水が棚氷の底に触れないようにする案などが出ている。(c)AFP/Patrick GALEY