人の命をいとも容易く奪い、今も世界で進行している武力紛争、内戦。それらを知るにつけ、「戦争のない」平成という時代を過ごした私たち日本人が、常に持っていなければならない意識があると感じる。それは、紛争が現実の出来事であり、実際に罪のない人が殺されているのだ、ということだ。
この写真は、教科書や論文で学ぶ私たちに、現実の意識を再認識させてくれるものだと感じた。二人の叫びは亡き人へ悔いる気持ちを届けたのかもしれないし、紛争という理不尽な暴力へ、怒りを届けたのかもしれない。あるいは、この状況の外にいる国際社会や私たちへ、現実感を届け、警鐘を鳴らしているようにも感じられないだろうか。
現実の叫びは、私たちに様々な意味を届けている。私たちは無関心であっていいのか、無関係であっていいのか、そんな疑問が頭をもたげてくるのを感じる。

早稲田大学 原田 陽平 紛争セクション

[講評] 羽場久美子(青山学院大学国際政治経済学部教授)
最後に、紛争からは、「深い叫びと悲しみ」を選びました
家族、親せきを失った人々の、嘆きの声が聞こえてくる写真。イスラエルのガザ地区の境界での抗議の際に殺されたとあるので、圧倒的な武力の差があるイスラエル国家に、文字通り赤子の手をひねるように簡単に殺されていくパレスチナ地区の若者たち。それを嘆き悲しむ家族や親戚たち。これは内戦というより、国家的暴力が市民を殺戮していく最も典型的な例である。世界の多くの国々がイスラエルの、パレスチナへの攻撃を非難しているにもかかわらず、国際社会は無力なままにとどまっている。
国家暴力に対して何もしない、「我々が」かかわっている、「我々は」どうすればいいのか、を鋭く告発する、深く強い悲しみと嘆きを伝えてくれる写真である。選者のコメントも大変鋭く深く温かい。目に焼き付いて離れない1枚である。