【5月24日 AFP】国連(UN)の世界保健機関(WHO)は23日、毒ヘビの咬傷(こうしょう)による死傷者を大幅に削減するための新たな戦略を発表した。WHOは、現状のままでは抗毒血清の不足が「公衆衛生上の緊急事態」を引き起こす恐れもあるとして、警鐘を鳴らしている。

【AFP記者コラム】ヘビへの恐怖、そして同情

 WHOの統計によると、毒ヘビにかまれる人の数は毎年300万人近くに上り、そのうちの8万1000人~13万8000人が命を落としていると推測されている。また、命は助かっても恒久的な障害やその他の後遺症に苦しんでいる人の数は40万人に上るとされた。同機関は2年前、「毒ヘビの咬傷」を「顧みられない熱帯病(NTDs)」の一つに分類している。

 WHOは今回、長い間過小評価され、見過ごされてきたこの問題に対して措置を講じるよう国際社会への呼び掛けを行い、また毒ヘビに関連する死者と障害者を2030年までに半減させることを目指す新たな戦略も提示した。

 ヘビ毒は、呼吸を停止させるまひ状態、失血死につながる出血性疾患、回復不可能な腎不全、恒久的な障害や四肢切断の原因となりうる組織損傷などを引き起こす恐れがある。

 咬傷被害者の大半は、熱帯地方の最貧困地域の住民だ。子どもは大人に比べて体が小さいため、毒による影響がより強くなる。

 今後の最重要課題は、良質の抗毒血清の生産を大幅に拡大させることだとWHOは指摘する。救命で必要となる抗毒血清については、1980年代以降に多くの企業が生産を中止しており、特にアフリカでは、有効で安全な血清製品を入手できる可能性が驚くほど低い。アジア地域でもこれと同じような状況になりつつあるという。

 この点について報告書では、「早急な市場の再形成と規制管理やその他の措置の強化を行わなければ、公衆衛生上の緊急事態の発生は避けられない」と記された。

 WHOは「毒ヘビ咬傷治療薬のための持続可能な市場の回復」を呼び掛け、適格な製造業者の数を2030年までに25%増やす必要性を強く主張している。これの実現を目指し、世界規模の血清備蓄体制を構築するための試験プロジェクトが現在、計画されているという。

 新たな戦略ではさらに、医療従事者向けの訓練や地域社会への教育活動の向上など、毒ヘビ咬傷の治療と対処に関する事項を、影響を受ける国々の国家保健計画に盛り込むよう求めている。

 国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」は今回の戦略を称賛しており、ヘビ咬傷による中毒症への対処において「ターニングポイントとなる可能性がある」と述べている。MSFによると、ヘビ咬傷中毒は「WHOのNTDsリストに記載されている他のどの病気よりも数多くの命を奪っている」のだという。

 MSFの熱帯医学アドバイザーを務めるガブリエル・アルコバ(Gabriel Alcoba)氏は、「ヘビ咬傷によって世界中で発生している犠牲者の数が目に見えないまん延をしっかりと表している」とコメントしている。(c)AFP