【4月20日 MEE】インド南西部のケララ(Kerala)州は長年にわたり、「湾岸ブーム」から恩恵を受けてきた。2018年には推定190万人のケララ出身者が中東の湾岸諸国で働き、母国に総額120億米ドル(約1兆3400億円)を送金。うち3分の1の約40億ドルは建設に投じられた。

 レストランと織物事業を営むためにサウジアラビアへ移住したE・P・S・ババさん(写真1枚目)はこう語る。「近所の人の中には、私がここまで大きな家を建てると決めたことを疑問視する人もいた。私はこう言ってやった。『あなたも金を稼いだら同じことをするよ』と」

 本格的な出稼ぎブームが始まろうとしていた50年前、ケララの道路網の規模は今の10分の1、病院は3分の1、工場は7分の1しかなかった。「ケララの開発はすべて、出稼ぎのおかげ」と話すのは、ケララ大学(University of Kerala)経済学部のロニー・トーマス・ラジャン(Rony Thomas Rajan)助教だ。

 湾岸諸国で稼いだ金で建てられた住宅は、ケララ州の田舎町に点在している。たとえばカラントド(Kallenthode)にある延床面積約280平方メートルの邸宅(写真3枚目)は、2002年からサウジアラビアで働いている40歳の出稼ぎ労働者が15万ドル(約1700万円)で建てたものだ。元出稼ぎ労働者の隣人アブドルアジズ・アランガダンさん(58)によると、「史上最大の豪邸を建てる」という住民同士の対抗意識が、こうした建築に拍車をかけているのだという。

 カマルディン・プラトさん(28歳、写真4枚目)は2009年から、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにて兄弟でインド料理店を営んでいる。「週7日、朝5時から夜中1時まで働いている」とプラトさん。「開店から数年は従業員を雇わず、自分たちだけでこなした。最近は、1日に約1500人が来店する」

 息子のムハンマドくん(写真5枚目)が生まれたプラトさんは、インドに延床面積約260平方メートルの家を建て、現在はドバイとケララを行き来しながら暮らしている。「息子には教育を受けさせ、ケララに腰を据えてもらいたい」とプラトさんは話す。

 しかしどんなサクセスストーリーにも、その裏には同じ幸運を得られなかった人が多く存在する。湾岸諸国での労働ビザ(査証)取得を目指す人は通常、汚職の泥沼の中を進み、違法な高額手数料を支払わなければいけない。多くの人はこれを長期的な投資ととらえるが、横行する人権侵害の被害を受けるリスクもある。湾岸諸国で強制労働の被害を受けている外国人の数は60万人にもなると推測されている。

 過去に湾岸諸国への出稼ぎをした経験があったナラヤナン・プシュパバリーさん(59歳、写真6枚目)は2015年、泥壁でできた自宅の修理代を稼ぐため、サウジアラビア入りした。しかし人身売買の被害に遭い、イエメンとの国境近くに住む家族に売られて虐待を受けた。2016年3月にインドに帰国し、以来、近所の人たちの厚意に頼って生活をしている。

 2014年の原油価格の急落を受け、ケララから出稼ぎに出る人は減り、2013年以降ケララに戻った人は30万人と推定されている。これにより、海外からの送金に依存し、自給自足の地元経済ではなく個人の富の上に成り立っていた社会は崩壊しつつある。「湾岸ドリームは消えようとしている」とラジャン助教は指摘した。

By Sebastian Castelier

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