【4月26日 AFP】寺院周辺の海面が上昇するにつれ近隣住民らは逃げ出したが、僧侶のソムヌック・アティパンヨー(Somnuek Atipanyo)さん(51)は移ることを拒んだ。ソムヌックさんは今、タイで急速に進む海岸浸食との闘いの象徴となっている。

【編集部おすすめ】島覆いつくすトタンの家々、漁場めぐり2国が対立 アフリカ・ビクトリア湖

 気候変動、工業型農業、急速な都市化という危険な組み合わせが原因で、タイ湾(Gulf of Thailand)沿岸は危機にひんしている。貴重なマングローブ林はなくなり、ソムヌックさんの寺院のように海面上昇で取り残される建物も出てきた。

 ソムヌックさんの寺院は首都バンコクから南に約1時間離れた漁村サムットジーン(Samut Chin)にあるが、30年前に浸食が始まって以降住民の大部分は、数百メートル内陸に移動し、そこに木製の家を建て直して住んでいる。

 ソムヌックさんは「水上寺院」と呼ばれている高床式の僧院にオレンジ色のけさを着て立ち、海を指さし、かつて学校があった場所を示す。「この寺は村の真ん中にあった」と、ソムヌックさんはAFPに説明した。

「私たちが寺を移動してしまったら、ここにかつて寺があったことを知る人がいなくなってしまう」と話す。今、小さな木製の橋がこの寺に行く唯一の手段になっている。

 近辺の海岸は、以前は広大なマングローブ林によって守られていた。タイ湾の沿岸は世界でも有数のマングローブ林で知られ、広範囲に広がる根が海岸線を安定させ、浸食防止の役割を果たしていた。

 現在、タイの貴重なマングローブ生態系を保全する取り組みが進められている。全国的なマングローブ植林ボランティアのプロジェクトが展開されており、ソムヌックさんの僧院周辺もその対象となっている。