【5月12日 AFP】バイオリンを弾く人、畑を耕す農民、頭にプロペラをつけたおんどり。これらはすべて、レバノンの戦場に落下したロケット弾や砲弾、銃弾などから作られたものだ。

 アーティストのシャルル・ナサール(Charles Nassar)さん(54)は、こうした陰鬱(いんうつ)で議論の的となり得る残骸を彫像に変えてきた。教訓や記憶を世に知らしめるためだ。

「爆弾の破片は大嫌いだが、同時に大切にも思っている」。首都ベイルートの南に位置するレムハラ(Remhala)村に所有する庭園で、きちんと手入れされた白髪交じりの顎ひげを蓄えたナサールさんはそう話した。

 ここ数十年の間に同国で相次いだ紛争は、多数の宗教・宗派が混在する小国を揺るがした。1975年から1990年まで続いた内戦や2006年のレバノンのイスラム教シーア派(Shiite)原理主義組織ヒズボラ(Hezbollah)とイスラエルとの間の紛争、その翌年のパレスチナ難民キャンプで相次いだ衝突では、金属が雨のように降り注いだ。

 ナサールさんは内戦の間、レバノンを逃れることを余儀なくされた。彼の祖母は、内戦で命を落とした。だが祖母やナサールさんが過去に親交のあった人々は、今も生き続けている。庭園のここかしこに展示された彫像に姿を変えて。

 ナサールさんが初めて金属製の彫像を制作したのは、ベイルートでのことだった。だが内戦後、自身が所有するレムハラ村の土地にそれらを展示することを決めた。作品は250点に上り、そのうち150点を売却。現在はそれらの移設に取り組んでいる。

「人々に戦闘を思い出させたいわけじゃない」とナサールさん。「砲弾に悩まされてきた人たちに、それを好きになってほしい」と説明し、「私は、黒を白に、ネガティブなものをポジティブなものに変えるよう努めている」と語った。(c)AFP