【2月24日 MEE】エジプト東部のシナイ半島(Sinai Peninsula)では、エジプト軍や治安部隊が過激派組織「イスラム国(IS)」系武装勢力などの掃討作戦を続けている。現地で兵役に就いている若い兵士らがミドルイースト・アイ(MEE)の取材に応じ、訓練や装備が不十分なままでの任務、死と隣り合わせの生活による精神的負担など、戦場の過酷な現実について語った。

■仲間の死

「軍はそいつを楽隊付きの軍葬で送ってくれたよ。やつの名前を冠した学校もできるんだそうだ」

 エジプトのある町のカフェで、戦死した友人の葬儀に参列してきたばかりだという兵士のアフメド(Ahmed)さん(20)は、水たばこをふかしながら話す。同じ大隊に所属する兵士だった友人は、シナイ半島北部で武装集団の待ち伏せ攻撃に遭って死亡したという。2つ目のサンドイッチをたいらげた別の兵士モハメド(Mohamed)さん(21)が首を振る。「俺は自分の名前にちなんだ学校なんていらない。モスクだってごめんだ。俺は自分の人生を生きたい」

 イスラエルやパレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)と接するシナイ半島では、ホスニ・ムバラク(Hosni Mubarak)政権の崩壊につながった民衆蜂起が起きた2011年ごろから、イスラム過激派組織が活動を活発化させてきた。政府はそれを抑え込むため、アフメドさんやモハメドさんのような若い男性兵多数をシナイ半島に動員している。だが、独立系の研究者らのまとめでこれまでに1500人以上の治安要員が犠牲になったとされるそこでの戦いの経験は、彼らの人生を根底から変えたり、深刻な心の傷をもたらしたりしている。

 ハレド(Khaled)さん(23)はシナイ半島北部ラファ(Rafah)で兵役に就いていた2017年7月、ガザからの人や物の流入を制限する検問所が武装集団の襲撃を受けた。自爆犯1人が検問所で爆発物を起爆させて兵士23人が死亡したが、その後も襲撃は続いたという。

「何人もの兵士が殺され、けがをしていた。それから、聖戦主義者(イスラム過激派)たちが続々とやってきた。まだ生きていた兵士は皆必死に銃を撃ち続けていたけれど、やつらは引きも切らず次々にやって来た」「俺は腹を撃たれて倒れて、動けなくなった。それでも、仲間の兵士たちの叫び声は聞こえた」

 ハレドさんはこの襲撃の後除隊し、今は年金を受給している。ただ、精神面のケアを求めたことはないという。「軍隊は、悲しいだとか、気分がすぐれないだとか、そんな言葉が通用するようなところじゃない。だから軍に入るのは男性だけなんだ」

 エジプトでは徴兵制がとられており、憲法の規定で18〜30歳の男性は少なくとも1年半兵役に服し、その後さらに9年間、軍の召集があれば応じることが義務とされている。シナイ半島で勤務している兵士の多くは、こうした徴集兵だ。