【3月9日 AFP】台湾北部の新北市(New Taipei City)で伝統薬の薬局を営むグー・チェンプー(Gu Cheng-pu)さん(36)は、この薬局を開けていられるのは病に伏している義理の父が生きている間だけであることを知っている。グーさんの薬局のような伝統薬産業を消滅の危機に追い詰めているのは、台湾の法律のねじれだ。

 グーさんは店の裏で、切りたての甘草の根を一皿分、蜂蜜を沸騰させた鍋の中に入れた。店で販売している伝統薬の一つを作る最初の工程だ。「伝統薬局は、独自文化の象徴だ」とグーさんは話す。「病気のときに薬を買いに来るだけの場所ではない」

 伝統薬自体は、今も台湾で広く人気がある。平均的な薬局は、200~500種類の植物や根、動物の一部や鉱物をそろえている。台湾ではこのような原料のうち、355種類が薬として認められている。

 だが、伝統薬局は消えつつあり、毎年約200軒が閉店している。1998年以降、当局は新たな薬局の開業許可を出しておらず、若い世代に店を継がせられないためだ。

 グーさんの薬局の開業許可を持っている義理の父は最近、脳卒中を起こした。グーさんは今、最悪の事態を恐れている。「薬局を閉めざるを得なくなったら、生活の手段を失うだけでなく、私たちの伝統も失われてしまう。それが、一番悔やまれる」

 政府は1990年代に職人技に頼ってきた伝統薬産業の規制を強化し、伝統薬の世界に専門的な見地を持ち込もうと試みたが、これが現在の開業許可不足につながった。新たな開業許可の発行をしないことで、専門医が規制と科学的な見地に基づき伝統薬を提供すると期待したのだった。

 台湾衛生福利部(衛生省)の伝統薬部門責任者チェン・ピンチー(Chen Pin-chi)氏はAFPの取材に対し、「当初われわれは、専門的な訓練を受けた伝統薬医師や薬剤師が伝統薬局を営むようになると期待した」と説明した。